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madrigale~紡げ、愛の唄

挿絵 230*278



「アレクー!」

「レオーン!?」

夜も更けて、降りる人もまばらなタルトゥ駅の狭いプラットフォームに、子供の甲高い声が響き渡る。
列車を降りればすぐの改札口に向かうアレクセイの目に飛び込んできたのは、ホームと待合室を隔てる柵から背伸びしてやっと出る小さな黒い頭とさかんに振られる子供の手、そしてまるで薄暗い待合室を照らすような、その後ろで柔らかく微笑む金色の天使の姿だった。
たった数人の改札の順番を待って出るのももどかしく、アレクセイはすぐに手にしたボストンバッグをその場に投げ置きヴァイオリンケースをその上に載せると、笑顔で駆け寄る少年を高く抱き上げた。

「ヨッ、とー!どうした、こんな遅くに?とっくに寝る時間じゃないのか?ん?」

言葉とは裏腹に、アレクセイも嬉しさに破顔するのをこらえ切れない。
タリンでの日々、常に心に渦巻く祖国の現状への懐疑心と愛国心の間で揺れ動く党員アレクセイ・ミハイロフを、愛しい者達との逢瀬がたちまち無邪気だったあの頃のクラウス・ゾンマーシュミットに戻していくのだった。

「だって、明日まで待ちきれなかったんだもの!おじいちゃんちに行く前に一番に会って、おやすみだけでも言いたかったの。マーマとね、アレクをビックリさせようって。ねえ、驚いた?ドキドキした?」

待ちに待った再会に顔を綻ばせアレクセイの頬にキスしたレオーンは、仕掛けたサプライズに興奮気味に瞳を輝かせていた。

「うーん、たしかにびっくりした!迎えなんて思ってもみなかったもんな~、ドッキドキだ!こいつめ!」

「えへへっ」

アレクセイは愛おしげに眼尻を下げひとしきり片手で黒い頭をクシャクシャすると、その視線を傍らに佇む金色の天使に向けた。

「・・・でも、明日のつもりが今日会えて嬉しいよ・・・元気だったか?」

会いたいと、待っていると添えてくれた言葉を確かめるかのようにアレクセイがユリウスにゆっくりと問いかけると、今日初めて鳶色の瞳と彼女の碧の瞳は溶け合うように視線を交わし互いを捉えた。
彼女の今にも蕩けそうな眼差しに思わず吸い込まれそうになってしまう彼だが・・・。

―ん・・・?

「う、ん・・・ぜ、んぜん、へい・・・き」

途切れがちにおかしな返答をし真っ白い顔を儚げに綻ばせると、レオーンを抱いていてもまだ余るアレクセイの広い胸板に、彼女は大胆にもおでこをコツンと凭せ掛けた。

―!?

しかしアレクセイはその胸を高鳴らせる間もなく、次の瞬間には彼女の脱力した華奢な半身を受け止めることとなり、反射的にその腕に力を込めて支えていた。

「・・・ユ、リウス!?ちょ・・・レオーンごめんな・・・」

そしてアンバランスな体勢をなんとか踏ん張りながら抱き上げていたレオーンをそっと下すと、金色の頭を懐に抱きかかえたまま彼女の白い首筋に触れてみる。

「マーマ、どうしたの?」

「熱い!おい、しっかりしろ、ユリウス!」






更新日:2017-10-02 16:32:15

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