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JugendⅠ溜息と腹の虫~初めての夜

挿絵 230*228



――ねえダメだよクラウス、そのまま寝たら。ちゃんとパジャマ着ておかないとまた・・・

――ん・・・だな。朝っぱらからのあの焦りは心臓に悪い・・・けど今日は寝顔しか見れなかったし、やんちゃ天使の朝の襲来が楽しみだぜ。

――ありがと chu! おやすみなさい・・・


~~~~~~~~~~


――はぁ・・・
――グゥ~キュルルゥ~~

「・・・眠れないのか?」
「あなたこそ・・・やっぱりなにか食べる?」

――よかった、あなたも起きてて。なんだか眠ってしまうのが惜しい気分だったから・・・
――おまえってやつは・・・オレへの殺し文句、どんだけ隠し持ってるんだ・・・こんにゃろめ!


さっきの「おやすみなさい」からもうしばらく、真夜中もとうに過ぎたベッドの中、溜息とお腹の音をまるで合図のようにいそいそとボクらは向かい合う。
と・・・吐息が近付くなり、呆れ声に鼻先をつままれた。

「ん!殺し文句・・・?ボクはただ・・」

―キミのぬくもりを素肌で感じて、キミの情熱を愛を全身で受け止めて、ボクも募った想いを溢れるままに・・・そうして離れていた隙間はあっという間に満たされて、身震いするほど幸せで・・・。

伝えきれない今の気持ちをゆっくりと噛みしめるうち、カーテンの隙間からさし込む僅かな月明かりに目が慣れて、いつものように鳶色の瞳が穏やかに微笑んでいるのがわかった。
昔はこんなふうに見つめられるとどうしていいかわからなくて、吸い込まれそうになる寸ででそっぽを向いたり食って掛かったりしたものだけど・・・今はもうそんなもどかしさはない。

愛していると、何もかも大丈夫だとその瞳がボクの全てを包みこんでくれているのがわかるから。
「あなたを愛してる」今はその言葉を声高らかに大空に解き放てるボクだから・・・!

それでも、あまりの近さに妙にドギマギと焦る・・・。

―さっきは裸でもっと至近距離だったくせに・・・そうだよ、大好きだったあのクラウスと・・・キャー!

「今日のおまえ、最高だった」

動揺を煽るように低い声が耳元をくすぐった・・・。

―やっぱり・・・何もかもお見通し?

「だ、だってキミが!・・・その・・・た、ただいまも言い終わらないうちにキスしてそのまま・・・話したいことだっていっぱいあったのに・・・」

――話すより、ずっと濃厚にわかり合えただろ?
――も、もう!知らない!

今日はお休みの前日(いや、もうお休みの日付に変わってる)。
いつもギリギリでとび乗った最終列車でボクとレオーンの待つタルトゥに帰って来るクラウスだけど、今夜はもっと遅く深夜過ぎに出張先から無理を押して帰って来てくれた。
さすがにレオーンも起きていられず(のをいいことに?)お腹は空いていないからと準備した軽食はスルーして、クラウスはベッドで散々ボクを貪り食べ・・・

――ハハ、ごめんごめん!出てこいよ、ウブな奥さん!

ひっぱり上げた毛布から出ていた頭のてっぺんをクシャクシャされて顔から毛布を剥されると、何か思いついたようなクラウスのしたり顔がそこにあった。

「目も冴えちまったし、どうやらおまえを食っても腹の虫は満足しないらしいから・・・そうだ、こんな夜は・・・チーズと蜂蜜のせたパン、おまえはあの時みたいに紅茶か?オレは~ワインかな」

「あ・・・」

「おまえの溜息とオレの腹の音・・・これって、まさしくあの夜のシチュだよな」

「うん・・・よく憶えてたね」

「忘れるもんか。なんたって、おまえと過ごした初めての夜だからな~」

―そうだね・・・罪人となってまだ間もない頃、凍えきって今にも砕けそうになったボクの心をひととき温めてくれた・・・キミとの夕べ。
切なく苦く突き刺さる茨の日々が、それでも所々輝きを放っているのはキミがいたから・・・ともに過ごした、確かな青春の煌き・・・





更新日:2019-03-29 20:41:31

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