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第一話


「離してッ…!」

 いつもの岐路についていたはずのあたしは、なぜか今ナイフを持った男に羽交い絞めにされている。

「それ以上近付いたらこの女を殺すッ!」

 臭い。このどうにもならん口臭と体臭のする鼻息の荒い男になぜあたしは羽交い絞めにされているのか。
 思い返せば数分前。学校の帰り道にあるビルの建設工事をしている現場を通りかかった所で、そこから飛び出してきたこの男と出会い頭に衝突。あまりの勢いにあたしは転倒。膝を強打。血出てます。
 イテテって状況把握も出来ないうちに、男があたしの髪の毛を荒々しく掴んで立ち上がらせいきなり首元にナイフ。冗談じゃねぇって。
 そしてお決まりの台詞まで律儀にありがとう。
 そんな台詞を吐くってことは勿論相手がいるわけで。くっさい口臭吐き散らしながら男が見据える先には人影が三つ。今度は一体何が出てくるのかと思ったら―――

「うわー…典型的な悪者の台詞過ぎてドン引き。それ以外に言うことねぇの?だっさ」
「人間誰しも追い詰められたらそうも言いたくなるんだろ。多めに見てやれよ」
「ゴチャゴチャ言ってないでさっさと終わらせて帰ろうよ。今日何件目だと思ってんの」

 そんな悪態を吐きながら三人のイケメンが暗闇を割きながら登場。あ、なんかこういうシチュをアニメで見た気がするっていう感じのやつ。最初に悪態吐いたやつは背は低めだけどやんちゃそうででもちょっとあどけなさの残る少年風の青年。それを宥めるように発言したのは背の高い所謂サラブレッド。頭の先から爪の先まで完璧。そして最後に厳しいツッコミ入れたのは、眉目秀麗って言葉を具現化したような…格好いい!より美しいが似合う色白の青年。
 普通に考えるならこの三人のイケメン達があたしを助けてくれる!

「っていうか、何なのこの女」
「任務の途中でこういうのすっげぇ面倒くせー。人質とか一番だりぃ奴じゃん」

 助けろよ。なんで不運にもこんなことに巻き込まれたあたしが文句言われてんのよ。

「ゴチャゴチャうるせぇぞ!!本当にコイツを殺すからな!!」

 臭い!マジでハンパ無い悪臭なんですけど!ああああああしかもあたしの首にナイフ若干刺さってるし!!痛い痛い痛い痛い痛い痛いーーーー

「はいはい二人共愚痴はその辺にして。さっさと終わらせるぞ」

 いよいよあたしの首にナイフがうっすら刺さり血液が流れ、大詰めとなった事を悟ったのか否か。サラブレッドが手を叩いて場を纏めた。早くそうしてくれできるなら。登場したときにそうしてくれればあたしのこの首の怪我は避けられたんじゃねぇのかよ。と、頭の中では思っていても体は正直で。手足は震えが止まらないし声も出せない。テレビや映画で見たような反抗なんてとてもじゃないが出来そうになかった。
 サラブレッドはそんなあたしの姿にチラリと目をやったあと、ふぅと一息吐いてその眼孔を男に向ける。それは先程までとは違う鋭いもの。数メートル先のあたしからも認識できるその瞳は赤く、そして冷たいものだった。

更新日:2017-06-11 23:29:31

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