• 38 / 216 ページ

蔵馬姫

━━━月明かりの夜

都の近くで、オレは木の枝の上で少し身を隠すようにして横笛を吹いている

オレの笛の音を所望したのは、目の前の道のど真ん中で舞を舞っている一人の美女…に化けた蔵馬だ

妖気に応えるように夜霧が立ち込めて、なんとも幻想的な、その光景にオレは思わず音を外してしまった

黒鵺「(あ、やっべ…)」

演奏停止

吹き慣れているはずの笛の音をとちるなんて自分でも信じられずに内心焦る

蔵馬「どうした?黒鵺」

舞を中断して、クルリとオレに向きを変えて、美女の姿をした蔵馬姫が問う

キョトンとした表情で

良かった、怒ってはいないようだ

黒鵺「悪(わり)ぃ、蔵馬」

吹き直そうとしたオレに、挑発するようなイジワルな笑みを浮かべた美女の声が届く

蔵馬「見とれてたのか?」

う…

見とれてたのは事実だ

否定はしない

潔く諦めて半ば投げやりに返す

黒鵺「ああ、見とれてたよ」

悪い?

クスリと笑って美女・蔵馬姫は、またクルリとオレに背を向け、片手の扇子をヒラヒラさせて笛を吹けと促している

望み通り、オレは再び笛を奏でてやる

幻想的な舞がオレの眼を捉えて離さないんだ

こんな道のど真ん中で舞を舞っているのは銀狐が化けた妖艶な美女

獲物が引っかかるのを待っている一匹の妖狐

ほら来たぜ

松明を持った一人の若い人間の男が美女を目にして立ち止まった

蔵馬姫は妖しい笑みを浮かべて男を誘惑しだした

今宵の蔵馬姫の獲物は、あの男か…

この続きは見たくねぇから(っていうか、見ていたら後で蔵馬にぶっ飛ばされるんで)ひとまず退散

(続く)

更新日:2019-06-16 18:13:29

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook