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鬼と姫の恋~逢瀬~

━━━あれから幾年(いくとせ)もの歳月が流れた

蔵馬・黒鵺・黄泉も少年から青年へと成長していた

━━━時は平安時代

人間の都では、美しい青年━━━鬼塚ザキヤ(おにつかの ざきや)が女性陣の中でひときわ噂になっていた

人間の女「見て、あのお方よ」

人間の女「なんて美しい殿方かしら」

人間の女「どこの貴族の方なの?お近付きになりたいわ」

人間の女性達を魅了する、この男━━━蔵鬼矢である

人間達が都を造ってからというもの、蔵鬼矢はちょくちょく都へ出没していた

もちろん、鬼だとバレないよう角は引っ込めて行くのだ

鬼女達も麗しく魅力的なのだが、人間の女性達との恋の戯れも楽しいものだと、蔵鬼矢はそんなお遊びにも手を抜かなかった

一方の鬼女・紅葉も都の一部の男性陣から噂になっていた

人間の男「見ろ、紅葉姫だぞ」

人間の男「ああ、いつ見ても麗しい」

人間の男「どこの貴族の出身なのだろう?教養に秀でていて、なんとしても、お近付きにぃい」

もちろん、紅葉も鬼だとバレないよう角は引っ込めて行くのだ

美しい男・蔵鬼矢、麗しい女・紅葉
この二人の噂で都の貴族達は翻弄されていた

蔵鬼矢と紅葉は、いつも別行動で都に来ていた

蔵鬼矢は人間の女性との恋を戯れる為

紅葉はというと、昼間は貴族の女性気取りの面で都を闊歩して歩き、時には御自慢の治癒能力で人々を癒しては高潔な女性として羨望され、夜になれば荒くれ者を引き付ける盗賊団の首領を務めて暗躍していた

蔵鬼矢「まったく、紅葉という奴は…」

蔵鬼矢は紅葉の噂を耳にするや否や、深い溜め息をついた

思えば紅葉の出自はこうだ━━━

一人の子無しの人間の女性が、子が欲しい為に天の第六天魔王に祈った

第六天魔王は女の願いを聴き入れ

そうして生まれたのが『紅葉』だった

言わば、紅葉は第六天魔王の申し子である

そして、紅葉は第六天魔王が創った魔玉『悪玉』を持っているのだ

そう、蔵鬼矢が持っている魔王尊が創った聖玉『善玉』と対をなす宝玉を━━━

蔵鬼矢「(第六天魔王…波洵とか魔羅(マーラ)とかいう、天界に住む悪魔の王)」

ある意味、紅葉の父と言ってもいいだろう…

蔵鬼矢は上空・天を見上げ呟いた

蔵鬼矢「天界…か」

立ち止まった蔵鬼矢にぶつかった一人の少女がいた

律姫「あ…っ すみません」

蔵鬼矢「おっと、すまないね」

━━━その時、それは運命の出逢いだったのだ

二人は、その刹那、恋に落ちたのだから━━━

(続く)

更新日:2019-06-16 18:11:52

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