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第1章 「このチーム、本当に大丈夫?」

聞き慣れたチャイムが鳴り響く。


授業を終える教師の言葉が聞こえ、隼人はやっとかと思いながら教科書を閉じた。相変わらず、魔法の授業は面倒臭い。何故魔力のない自分も魔法を学ばなければならないのか、ほとほと疑問だ。

ぐ、と背伸びをしていると、前の席に座っていた女生徒がこちらを振り向いた。なんだろう?と首をかしげる。彼女は確か、そう。如月鏡花。ショートカットの茶髪がふわふわとしていて、とても柔らかい印象を受ける子だ。


「どうした?何か用か?」


「うん。あのね、さっきの魔法学の授業で、ちょっとわからないことがあって…」


「うん?どこどこ、みせて…」


そう言って身を乗り出そうとした時。鋭い声が隣の席から隼人の声をさえぎった。


「如月さん。そいつは魔法が使えない人よ。魔法学のことなら、よければ私が教えてあげるわ」


「なっ、おい!俺だって真面目に授業聞いてたぞ!?」


「ふん、どうかしら?私の見間違えじゃなければ、大きなあくびをした後、教科書をわざわざ目の前に立てておいて、その後ろに突っ伏していたみたいだけど?」


「い、いや、それはだな…」


「えっと、ごめんね?小野村くん。無理言っちゃって…」


「いやいや!わかる!どこ!みせて!」


「はいはい変な意地を張らない!さ、如月さん。見せてみて?」


「う、うん。えっと、火の魔法の広域展開の呪文なんだけど…」


がくり、と隼人は肩を落とす。せっかく可愛い女子とお近づきになる機会が、己の怠惰でおじゃんになってしまった。
恨めしく黒田を見やると、得意の攻撃魔法のことだからか、どこか生き生きした表情で解説を始めている。相変わらず物騒な奴だと、内心で肩をすくめた。


小野村隼人には、生まれつき魔力がない。そもそも魔法とは『マナ』と呼ばれる生体エネルギーを魔力に変換し行使される。隼人にはその変換するための機構が体内に備わっていないのだ。
だがこの世界、魔法を使えないというのは大変不便なことだ。そこで、魔力を持たないものには魔法学と別に錬金術の授業が設けられる。

要は、魔法を技術的に解釈し、触媒を用意することで擬似的に魔法を行使するのだ。現在普及している通信手段である、通信術がその確たる例である。
魔力を持つ石、魔石を触媒に、通信の魔法を技術的に組み込み、スイッチのオンオフと己と通信相手のマナを登録するだけで誰でも通信魔法が行使できるようになっている。


この技術を『魔術』と呼ぶ者もいるが、まだそちらの名前は浸透しておらず、公式にも錬金術と呼ばれている。名前の由来は、古代の遺跡から発掘された本にある、石を金に変える技術だそうだ。


「これでも俺、錬金術の授業では相当成績良かったのに…」


「錬金術なんて。魔法だと杖を振るだけで終わる作業を、やれ触媒だやれ術式だーってめんどくさい手順でやるモッサい技術じゃない。あんなのでいい成績を収めたって、誰も褒めたりしないわよ」


「言ってくれる…けどまあ、確かに魔法使いから見れば、俺ら錬金術師のやってることなんてまどろっこしくみえるよなあ」


黒田の鋭い指摘に反論する気は起きない。なぜなら、まあ事実だからだ。
差が出ないように、と研究された技術なのはわかっているが、やはり魔法使いと錬金術には絶望的な差がある。これはこの先、どうやったって乗り越えられない壁になるのだ。
だが、その黒田に、意外にも反論する声があった。


「私は、そうは思わないわ。私たちはマナがどうしても必要だし、魔法を使えば疲れてしまうよね。だけど、錬金術師はそれがないんだもの。きっと、すごく優れた錬金術師には、私たち魔法使いは敵わないんじゃないかなって思う」


「なっ…錬金術師ごときに、魔法使いが劣る!?如月さん、それ本気で言っているの!?」


「う、うん…。あ、あくまで、すごい錬金術師がいたら…だけど…」


黒田の気迫に、如月は縮こまっていく。
見かねた隼人は、話題を変えようと「それよりさ」と声を出した。


「学生戦争のチーム分け、今日の放課後発表だよな?」


「あ、う、うん!」


「…そうだったわね。この黒田家長女のチームなんだから、それなりの力を持った『旗持ち』がいなくちゃ、怒るわ」


「黒田さんは本当に血の気が多いな…如月さんは?」


「わ、私、あんまり攻撃魔法が得意じゃないから、黒田さんみたいに強い人と一緒だと、迷惑かけちゃうかなって…」


「あら、そんなことないわよ。もし一緒のチームになったら、徹底的に鍛えてあげる!この黒田流攻撃魔法を叩き込むわ!」


「ひえ…」


「はあ…こいつとだけは、同じチームになりたくない…」


ため息をつくとほぼ同時、次の授業の開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。



更新日:2017-05-01 22:11:14

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