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第4.5章「Side:」



Side:岡崎明日香


自分が根っからの戦鬪好きであることは、理解していた。
錬金術師は魔法を使えないというハンデを背負い生きる。
自分の家系が、代々剣術を伝えて来たのも、魔法使いが生まれにくいというその特殊さ故だ。魔法使いである祖母から生まれた父も、『サーキット』を持たなかった。

だから、自分が錬金術師であることを疑問に思ったことはないし、疎ましくも思ったことはない。
ただ、錬金術師であったから、この剣術を仕込まれたのだと思うと、『サーキット』を持たぬ身で良かったとすら思うのだ。
それほどまでに、岡崎明日香は剣が好きなのだ。

そして、それ以上に


強敵と戦うのが、好きだ。
好きな、筈だ。


「その筈でしたが…何故でしょう。気持ちが高揚しません」

「なんの話かな?」


そう返してヘラリと笑うのは、見覚えのある男子。
リーダーと握手をしていた、相手チームの頭だ。
確か、羽多野といったか。

明日香の後ろには、東がいる。
大きな体で、柔らかな頬で、細い目で、いつも優しく笑う彼が。
今は、とても見ていられないほどの傷を受けて、蹲っている。

東は優しい性格だ。防衛をしろと言われた途端に、とっさに己の身を盾にしたのだろう。そしてその彼を、羽多野は痛めつけたのだ。

この戦争は、致命傷を与えるとその生徒は空間魔法の外へと転送される。だから、高威力の魔法が推奨されているし、その方が確実に敵を減らせる。

それは逆にいえば、致命傷でなければいつまでも攻撃ができるということ。
気づいてはいた。実践しようとは思わなかったが。
元々軍人でもなんでもない、ただの一般人である学生を痛めつけるだなんて、そんなことをする必要はどこにもないからだ。

なのに。羽多野はそれを行なった。

何故だろうか、と明日香は己の胸に手を当てた。
今まで感じたことのないほどの衝動がこみ上げてくる。
これが、仲間を傷つけられたことによるものだとはすぐにわかった。


この、感情の名前は。


「…あなたに、怒りを覚えています。東殿を傷つけた報いを、与えたいと思ってしまう」

「これは戦争だよ?錬金術師さん。憎い相手を痛めつけるのは当然だろう。まあ僕は、君たちのことを憎いとは思っていないけどね」

「ではなぜ、このようなことを?」

「楽しいからだよ。普段は理由もなしに魔法で人に危害を加えると罪になる。だけどこの空間の中ではそれは適用されない!最高の儀式だとは思わないか?僕はね、勝ち負けなんてどうでもいいのさ。ただ一人でも多く、僕の魔法で傷つけたいんだ」

「…現実では己を抑えているのなら、少しはマシでしょう。ですが」


そこで言葉を切り、明日香は剣を構えた。
一般人にはしない構え。己の家に伝わる、相手を殺す剣の流儀。


「あなたのいう、この儀式の素晴らしさを、私も享受させていただきましょう。現実では振るえぬこの剣、あなたの粛清に使わせていただきます」

「なんだ、君も同じなんじゃないか。剣士さん」

「否定はしません」


人を傷つける力を、自ら欲した時点で明日香と羽多野は同じ敷居にいる。
だがそれをどう使うかで、結果は大きく変わる。
明日香はそれを知っている。羽多野はおそらく、知っているが無視している。
だから。


「肯定も、しませんが」


地を蹴る。瞬間、羽多野の不気味な笑みが近づく。
その掌に、風の刃が光ったのが見えた。

咄嗟に剣を突き出すと、彼の魔法とぶつかり大きく弾かれた。
体をひねり二撃目を放つも、上半身を折り曲げかわされる。ならばと腹を蹴り上げれば、細めの彼の体は簡単に宙に浮いた。

「かはっ…!」

「はぁ!」

剣の腹で横から殴ると、波多野がゴロゴロと吹っ飛んだ。
だが即座に減速魔法で衝撃を殺し起き上がったのを見て、なるほど中々の使い手だと明日香は息を吐いた。


更新日:2017-10-09 00:25:07

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