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第4章 「はじまりの戦争」



パチリ、と目を開けた。
朝日がやけに眩しく見える。ぐっすり寝れたのは、きっと練習試合のおかげだ。
隼人は体を起こし、ジャージの上着に袖を通した。朝の鍛錬は心身を覚醒するのにいいとの岡崎のアドバイスに従い、体操や軽い筋トレをする。少し汗をかいた頃に、妹の呼ぶ声が聞こえてきた。


「兄さん、朝御飯できました」

「わかった、すぐ行くよ」

「今日が初戦でしたね。しっかり食べて、精をつけてください」

「ああ。いつもありがとうな、紅音」


急いで制服に着替えて、持ち物を確認する。戦争に使うものは昨日のうちに学校に用意してあるから、持って行くものといえば刀くらいだ。

食卓に行くと、肉団子のスープとサラダが置いてあった。いつも通りな朝食に、少しだけ緊張感が薄れる。
この国は水の資源が多い為か、スープ料理が主流だ。スープ料理が作れなければ一人前ではないと言われる程度には。かくいう俺もそう言われ、いくつかのスープを作れるようになった。あの頃の辛口な紅音が懐かしい。
舌鼓を打ちながら、今日の事を考える。

チームの皆には既に伝えてあるが、学生戦争では敗退した者はそのまま戦争への参加資格を失い、また『旗持ち』はカケラを失う。ただの学生に戻るだけではあるのだが、究極の魔法に関する情報が一気に手に入り辛くなる事だろう。負けた時のデメリットがこれだけだと思えば、少しは気が楽になるのだが、そうはいかない人物が隼人のチームにいる。
それが、黒田暁だ。黒田家といえば、王に仕える側近の家系で、黒魔法においてこの国ではかなり名を馳せている。そんな家の娘が初戦で敗退だなんて汚名は、黒田も、その家も許しはしないだろう。
だから、隼人は勝つことを考えなければならない。作戦はきちんと考えた。できる限りの準備もした。だがやはり、不安は残る。

食器を片付けて紅音に後を任せると、刀と鞄を担いで玄関に行く。靴を履いていると、エプロンをつけた紅音が小走りで駆け寄ってきた。


「どうした?」

「兄さん、あの…気休めかもしれませんが、必勝祈願のお守りを作りました。受け取っていただけますか?」

「えっ、悪いな。ありがとう紅音」


差し出されたのは、勝利を意味する古代文字が刺繍された、小さな袋だった。何か入っているのか、優しい香りがする。


「いい匂いだな」

「紅茶の茶葉を入れてあります。魔法で長持ちするようになってるんです」

「器用な事をするなあ。流石は自慢の妹だ」

「この程度では、兄さんの足元にも及びませんよ。それでは、いってらっしゃい。ご武運を」

「ああ、いってきます」


軽く手を振り家を出る。
透き通った風が、これからはじまる戦いの前触れのように思えて、少し身震いした。


更新日:2017-07-17 14:37:18

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