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第3章 「本戦前の休息」



(やっぱり、覚えてないんだな)


揺蕩う意識の中、ぼんやりと考えていた。
この感覚は慣れている。小さい頃から、よくマナの枯渇で倒れていた。

旗を持つ手が震えて、足まで力が入らない。立っているのがやっとでも、それでも勝つと信じていた。小野村ならやり遂げられると信じていた。
彼の、今にも泣き出してしまいそうな不安な顔が思い出される。
そこまで心配をかけていたのだということが、申し訳なくも嬉しくもあって、自然と苦笑が溢れる。


──俺を信じろって!


そう、信じている。ずっと、ずっと。
もしかすれば、自分自身のことよりもずっと。


(たとえ忘れられているとしても、私は決めた)


絶対に覆されることのない固い決意が、如月鏡花にはある。
それは、遠い日の思い出の中の、たった一度の約束。
縛られているわけではない。そもそも、その約束はすでに失われたも同然なのだ。それでも。



ハッと、目が覚めた。

見ればそこは自分の部屋で、机のランプの光が暗闇を照らしている。
外は、もう暗い。練習試合が終わって、倒れてから、どうなったのか。記憶が曖昧だ。
体にはわずかな倦怠感が残っていたが、他は問題がなさそうだった。
起き上がり、ベッドに座り直す。


「えっと…何があったんだっけ…」


ぼんやりと記憶を呼び起こそうとしたところ、ちょうど下から母が自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
その声に、咄嗟に声を返した時、時間がまだ夕飯時だと時計を見て気づく。
思ったより、眠ってはいなかったようだ。

ゆっくり立ち上がり、着っぱなしだった制服を脱ぐ。
少しの開放感にふうと息をつき、ラフな部屋着へと着替えようとした時。


コンコン


とノックの音がした。
あれ?と思いつつも返事を返すと、扉が開く。

そこには


「う、うわぁあ!!????」


何故か小野村が


「お、小野村くん…?」


いたということにびっくりして、一瞬思考が停止した後、
顔を真っ赤にした彼の見る己の姿に意識が移り。
そして。


「ひ、ひゃああああああああああ!!!!????」

「わぁぁぁああああぁぁごごごごごかいだああああああ!!!!!」

「み、見ないでください!出て行ってください!!」

「わか、わかった!!でていくから!!物を投げないで、いたっ!!」


逃げていく背を見つめ、切らしていた息を整える。心臓がばくばくしていた。

見られた。

よりにもよって彼に。

…というよりも、何故ここへ?

その疑問が湧き上がり、鏡花は慌てて服を着替えると扉を出る。
そこには、どうやら黒田に折檻されたらしい小野村の姿が。
ところどころからプスプスと煙が上がっているのは気のせいだろうか。


「暁ちゃん!小野村くん!」

「おはよう、鏡花。気分はどう?」

「もう全然大丈夫だよ。二人はどうしてここに?」

「鏡花のお父様に、お誘いを受けたの。晩御飯を一緒にいかがって。それで、話も聞けるいい機会だしと思って、小野村と二人でお見舞いに来たってわけ」

「っい、てて…。如月さん、さっきはほんとごめん…」

「ううん、気にしないで。わざとじゃないってわかってるから」


それに、こちらにも非はある。普段家族がしないノックをして来たのだから、もう少し考えてから返事をするべきだった。


そう伝えると、黒田には甘いと叱られてしまったが。



更新日:2017-06-11 22:31:05

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