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小説

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(1)再会は突然に

 修平は今朝もいつも変わらない朝を迎えていた。大学を卒業してから気がついたら、もう7年が経とうとしていた。修士課程が3年そして今の博士課程で4年、本当に変化のない日々が毎日続いていた。修平のコアタイムは9時から21時までの12時間だった。コアタイムとは、修平が研修室にいなければならない時間だった。

 だが最近の修平はコアタイムの21時を過ぎても研究室を離れることはなかった。24時を過ぎる前に研究室を出ることができればいい方で、ほとんど修平は自宅に寝るだけのために帰っている日々が続いていた。何も修平が積極的にそのような環境を受け入れている訳ではなかったが、周囲の研究仲間の連中が研修室を出ようとしないので仕方がなかった。

 大学院生と言っても文系の友人たちにはコアタイムなんてなく、それだけでなく研究室に暫く顔を出さないことだって当たり前だという。もっとも理系の大学院だからと言って、修平の大学の中でも研究分野によって全く異なっていた。

 修平のコアタイムのほとんどは、研究室内で実験に取り組んでいる。修士課程の頃には授業らしい時間もあったが、博士課程に進んでからは1日中実験に取り組んでいる日々が続いていた。実験現場から離れているごくわずかな時間には、ミーティングや勉強会が入っていた。

 そして週末の土曜日か日曜日のどちらかの日に、研究報告会を中心としたセミナーがセットされていた。修平にとって唯一の休日となる土日のいずれかの1日も、それまで目を通すことができなく溜まっていた論文を読むことであっという間に時間は潰れていた。

 修平は来年で30歳になる。正直今と同じような生活が、大学に入学した時からずっと続いていた。趣味などに時間を使うなんて考えられないことであって、ほんの数時間数分間空いた時間に好きな音楽を聴くぐらいだった。少しでも空いた時間があったら図書館でCDを借りてインポートをし続けていたら、128GBのアイポットタッチの空き容量もあと少ししか残っていなかった。

 そんな生活のど真ん中にあるはずの研究そのものについて、最近の修平はそのあるべき立ち位置さえ思い出せないことが出てきていた。この研究は何のためにやっているのか、この研究を突き詰めていくことによって何が解明されるというのか、そんな基本的な事柄に修平はふと疑問符を投げ掛けていたのだった。

それだけでなく修平は自分が書き上げた論文ですら、何の意味があるのかと思うまでに至っていた。そして修平と一緒に研究室で黙々と白衣を身にまとい実験に取り組んでいる仲間を見つめていると、全員がまるで無個性な同一人のように見えて仕方なかった。そして修平の周囲の仲間たちは、実験に集中していた時間の長さだけを競い合っているのだった。

そんな生活の中でたまに修平は、地方や外国で行われる学会に参加することがあった。その移動の時間が修平にとっては、唯一の癒しの時間だった。窓の向こうと行き過ぎる風景をぼんやりと見ているのが、悠平は大好きだった。そんな学会参加も日程が重なったりすると移動中にもあれやこれや、やらなくてはならないことが出てきて苦痛になることもあった。

更新日:2017-05-30 08:16:26

★【91】レモンの木の下で(原稿用紙100枚)