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no title
春の強い風に桜の舞う中を、正門から教職員用の玄関へと歩き、靴を、上履きとして使用しているスパングルでキラキラしたバイオレットのお気に入りのサンダルに履き替えた、長谷山菜子(はせやま さいこ)・38歳。職業・高校教師。
職員室へ向かうべく最初の角を曲がったところで、
(っ! )
1人の男子生徒とぶつかりそうになった。
顔を見れば、菜子が担任を務める316HRのホンワカアイドル系イケメンクラス委員・井上隼人(いのうえ はやと)。
直後、井上も菜子の顔を見、目が合う。
「あっ! す、すみませんっ! 」
バッと2・3歩分飛び退く井上。
菜子はトレードマークであるラピスラズリのシャドウの目でニッコリ笑い、
「大丈夫だよ、井上君。おはようっ」
井上が飛び退いた分の距離を詰めた。
「お、おはようございます……」
井上は、何故か緊張気味の様子。
(…そっか、このくらい年頃の男の子って、年上の女性に憧れるものだもんね。特に相手がわたしみたいな美人じゃ、緊張するのも無理ないか)
と納得したところで、菜子は井上の頭に目を留める。柔らかそうな質感のその髪に桜の花びらを見つけたのだ。
菜子は髪の花びらへと右手を伸ばす。
ビクッと井上は身を縮める。
菜子、人指し指と中指で花びらを挟み、自分の口元へ持ってきて口づけ、微笑んだ。
「花びら、ついてたよ」
井上は固まった状態のまま。
(…可愛い……っ。そんな緊張すること無いのに。…そこまで、わたしのこと……? )
ドキドキしてきた菜子。
(でも……)
直後、申し訳ない気持ちになる。
(ゴメンね。わたしには、ユウ君という人が……)
ユウ君、とは、この春から菜子が生活を共にし始めた彼氏。
その姿を思い浮かべ、菜子はキュンとなった。30分ほど前まで一緒にいたはずなのに、たまらなくユウ君に会いたくなった。
しかし、
(……こんなの、わたしに好意を寄せてくれてる井上君を前にして悪い……ううん、他の生徒たちにだって悪いよね。わたしは先生なんだから、ちゃんと切り替えなきゃ……!!! )
すぐにそう気づき、息を大きく吸って深く吐いて、心の中を換気。
菜子には現在、自分の受け持っているクラスのことで心配ごとがある。頭を切り替えるため、意識的に、そのことについて考えた。
菜子のクラスの教室には、エイリアンがいるのだそう。
噂に聞く、そのエイリアンは、体長150センチ強。40歳前後と思われる女性で、テカった顔と青い瞼が特徴的。紫色のド派手な履物を履き、それに負けないくらい派手で個性的な衣装に身を包んでいる。また、女子生徒には当たりが強いのに男子生徒や男性教諭には色目を使うということで、女子生徒たちはエイリアンに対して激しく腹を立て、男子生徒たちは身の危険を感じ常に怯えているとのことだった。
菜子は、そのエイリアンを絶対に許せない、野放しに出来ないと思っている。わたしの可愛い生徒たちの平和な学校生活を脅かすなんて、と。
クラス全員どころか、この学校の教員その他スタッフ、全校生徒が目撃したことがあるらしいのに何故か菜子だけは見たことが無いが、まだ新年度はスタートしたばかり。何としても今のうちにコンタクトを取って、そのエイリアンの主な出没地点である316HRの教室を管理する責任のある自分が何とかしなければ、と、決意を新たにした。
その意識から遠くなった菜子の視界の中、井上が相変わらずの緊張の面持ちで遠慮がちに会釈し、そっと立ち去る。
(終)
職員室へ向かうべく最初の角を曲がったところで、
(っ! )
1人の男子生徒とぶつかりそうになった。
顔を見れば、菜子が担任を務める316HRのホンワカアイドル系イケメンクラス委員・井上隼人(いのうえ はやと)。
直後、井上も菜子の顔を見、目が合う。
「あっ! す、すみませんっ! 」
バッと2・3歩分飛び退く井上。
菜子はトレードマークであるラピスラズリのシャドウの目でニッコリ笑い、
「大丈夫だよ、井上君。おはようっ」
井上が飛び退いた分の距離を詰めた。
「お、おはようございます……」
井上は、何故か緊張気味の様子。
(…そっか、このくらい年頃の男の子って、年上の女性に憧れるものだもんね。特に相手がわたしみたいな美人じゃ、緊張するのも無理ないか)
と納得したところで、菜子は井上の頭に目を留める。柔らかそうな質感のその髪に桜の花びらを見つけたのだ。
菜子は髪の花びらへと右手を伸ばす。
ビクッと井上は身を縮める。
菜子、人指し指と中指で花びらを挟み、自分の口元へ持ってきて口づけ、微笑んだ。
「花びら、ついてたよ」
井上は固まった状態のまま。
(…可愛い……っ。そんな緊張すること無いのに。…そこまで、わたしのこと……? )
ドキドキしてきた菜子。
(でも……)
直後、申し訳ない気持ちになる。
(ゴメンね。わたしには、ユウ君という人が……)
ユウ君、とは、この春から菜子が生活を共にし始めた彼氏。
その姿を思い浮かべ、菜子はキュンとなった。30分ほど前まで一緒にいたはずなのに、たまらなくユウ君に会いたくなった。
しかし、
(……こんなの、わたしに好意を寄せてくれてる井上君を前にして悪い……ううん、他の生徒たちにだって悪いよね。わたしは先生なんだから、ちゃんと切り替えなきゃ……!!! )
すぐにそう気づき、息を大きく吸って深く吐いて、心の中を換気。
菜子には現在、自分の受け持っているクラスのことで心配ごとがある。頭を切り替えるため、意識的に、そのことについて考えた。
菜子のクラスの教室には、エイリアンがいるのだそう。
噂に聞く、そのエイリアンは、体長150センチ強。40歳前後と思われる女性で、テカった顔と青い瞼が特徴的。紫色のド派手な履物を履き、それに負けないくらい派手で個性的な衣装に身を包んでいる。また、女子生徒には当たりが強いのに男子生徒や男性教諭には色目を使うということで、女子生徒たちはエイリアンに対して激しく腹を立て、男子生徒たちは身の危険を感じ常に怯えているとのことだった。
菜子は、そのエイリアンを絶対に許せない、野放しに出来ないと思っている。わたしの可愛い生徒たちの平和な学校生活を脅かすなんて、と。
クラス全員どころか、この学校の教員その他スタッフ、全校生徒が目撃したことがあるらしいのに何故か菜子だけは見たことが無いが、まだ新年度はスタートしたばかり。何としても今のうちにコンタクトを取って、そのエイリアンの主な出没地点である316HRの教室を管理する責任のある自分が何とかしなければ、と、決意を新たにした。
その意識から遠くなった菜子の視界の中、井上が相変わらずの緊張の面持ちで遠慮がちに会釈し、そっと立ち去る。
(終)
更新日:2017-04-19 09:38:55