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epilogue

 半月後、熊さんは別の仕事を引き継ぐという形で、今の仕事から外された。親方は熊さんに何も言わなかったが、親方の配慮が窺える采配だった。
 というのも、 
 熊さんが新たに引き継ぐ仕事は、今までの仕事よりも一ランク下になるが、熊さんの仕事に対する情熱や意欲を 削ぐほどのものではなかった。”青豆”と熊さんの仕事の内容が違えば、二人の間に摩擦は起きなくなるからだ。
 一応、”青豆”の言い分が通ったという形になるので、外部との摩擦を避けることができる。
 
 なにもかもがうまくいくはずだった。
 だが、忙しい仕事は親方や熊さんの思うとおりにしてくれない。折角の配慮だったが半年も経たない内に、熊さんは再び、”青豆”と一緒に仕事をすることになる。
 だが、熊さんは決めた。「同じ轍(てつ)は踏むまい」と。

「熊さんにそのような辛い話があったんですね。それからどうしました」
「八っあん、考えてみたんだが、一つの方法として仕事から逃げることにしました」
「逃げる? それはどういうことなんです ? 熊さん」
「八っあん、時には息抜きが必要だと気づいたんですよ。もちろん、ちゃらんぽらんな仕事はできませんが」
「…………?」
「八っあん、仕事を欲張りすぎると周りが見えなくなり、もめごとやいさかいが起こりやすくなるとに気が付いたんですよ。ですから、逃げ込めるところを作っておいて、気づまりになったと思ったら欲張るのを止め、逃げ込むことにしたのです」
「熊さん、少しはわかるような気がしますが……」
「八っあん、逃げ込めるところというのを具体的に言いますと、人によっては、ネット、アニメ、ワインにソバ打ち、たまたま私の場合は創作だったという訳ですよ。逃げられるところがあれば、精神にも健康にもいいし、逃げ込んだ先で『物語』ができるほど築き上げていけば、たとえ小さくても、自己満足を得ることができ、運が良ければ仲間ができる」

 熊さんは忙しさにかまけて中断していた物語へ、再び取り組み始めます。
 構想の一部が固まりかけたある日、いつものように朝刊を手にした熊さんは、とある出版社の作品募集広告を目にした。
「あと、53日!」と書かれた見出しは、作品に取り組み始めた熊さんの気持ちを、いやがうえにも高めたのでした。

更新日:2017-07-17 16:43:52

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