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昂胤、完食する

83 昂胤、完食する①


事務所には、雄大と周が、所在なげに座っていた。その横では、夕実が、地図解明に取り組んでいた。5枚揃ってこそ完成する地図を、1枚不足のまま仕上げようとしている。

 昴胤に頼まれてやっているわけではなく、あくまで夕実のたいくつしのぎだが、もし完成できれば、昴胤に喜んでもらえるだろうとは思っていた。昴胤たちがあと一枚の地図入手に苦労していることを、夕実も知っているからだ。

だが、先日は驚いた。予定より早く帰国したと思ったら、パクが大ケガをしていた。肩と太ももを撃たれたと聞いたが、パクは、入院することもなく昴胤に送られて石垣島離島の重次郎のもとに帰って行った。

 ケガをしたのは自分のせいだと昴胤は言ったが、雄大も周もそうは言わなかった。本当のことは、夕実にはわからない。ただ、しばらく昴胤が帰って来ないような気がした。

「ユーちゃん、ボンヤリしてないで大阪にでも行ったら?」

「なんだよ夕実ちゃん、俺を追い出したいのかよ」

「イヤだユーちゃん、追い出されるようなこと、何かしたの?」

「追い出されるようなことって何だよ。そんなこと、俺がするわけねえだろ」

「ならいいじゃない」

 夕実は、イラついていた。二人が座っているだけで、なぜか腹立たしい。米吉を跳ねた犯人を探すとか何かすることがあるはずなのに、事務所でボンヤリされると無性にむかつく。

「夕実~。所長さん帰国したんですって~?」

 とつぜん和美が入ってきた。

「あ、ユーちゃん、周ちゃん、お帰りなさ~い」

 二人を見て和美が言った。和美の狙いは周だった。

「おう、和美。久し振り。きょう、仕事は?」

 雄大が言った。

「きょうは水曜日よ」

「あ、そうだっけ? じゃ今日は休みだ」

「何言ってるのよ、ボンヤリしちゃって」

「そうなのよ。帰ってきてからずっとこうなの。何か言ってやって!」

 夕実も会話に入ってきた。





更新日:2017-06-09 08:03:52

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❸「ダルマは哭いた」》