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和美、事務所へ




 74 和美、事務所へ①


「ハ~イ! 夕実、何してるの?」

 事務所に入ってくるなり和美が言った。

 こちらは東京。

 田川昴胤探偵事務所。

 夕実は、事務所で孤軍奮闘していた。

 5枚のうちあと1枚の地図入手に昴胤たちが苦労しているのを知っているので、いっそのこと4枚で地図を完成できないものかと、無理を承知で超難解パズルに挑戦しているのだ

「あ、和美。地図とにらめっこ」

 チラっと和美の顔だけ見ると、夕実はまたパソコンに視線を戻した。

 和美は、夕実の一番のよき理解者だ。

 中学に入ったときからのつきあいだった。女同士で親友は生まれないと言う者もいるが、夕実は信じない。

 中学生のとき、3学年とも夕実と和美は同じクラスだった。卒業し同じ高校に進学してもまた同じクラスになったときは、切っても切れない運命の赤い糸で結ばれていると二人は本気で信じた。

 高2で初めて違うクラスになったとき、手を取り合って不運を泣いた。やけになって二人で呑みに行ったスナックで男と知り合い、和美は止めたが夕実はそのまま家に帰らなかった。そのとき、夕実の居場所を知っていたのは、和美だけだ。

 男は、地元暴力団の準構成員だった。同棲を始め、学校にも行かなくなった夕実は、学年トップだった成績もガタ落ちになった。生活も乱れ、男の影響で、暴力、恐喝を常とするようになった。このころは、和美の言うことを夕実はまったくきかなかった(田川昴胤探偵事務所第一彈《瓶詰めレター》)。

 娘を心配する夕実の母親翔子に頼まれた昴胤は、男の元を離れるよううまく仕向けた。そのころ夕実は昂胤とは面識がなかった。

 目が覚めた夕実は、以前に戻り、成績も学年トップにまたたくまに返り咲く。そして、和美とのつきあいも復活した。

 その頃から夕実は昴胤の事務所に頻繁に顔を出すようになり、心は昴胤に傾注していく。

 大学生になってからは、昴胤にうるさがられるほど事務所に入り浸る。




更新日:2017-05-26 19:34:01

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❸「ダルマは哭いた」》