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曇曜大師、会えず

 71 曇曜大師、会えず①

 昴胤たちは、童威と共に童猛を故郷の華南広東省の掲陽へ連れて帰り、荼毘に付した。

 童威が、童猛兄貴のカタキを討つといってきかなかった。一緒に連れていってくれと。

 だが、昴胤が許さなかった。素人に太刀打ちできる相手ではない。それに、直接のカタキは、昴胤たちがすでにとっている。

 ワンボックスカー内で気を失っていた男は捕えてある。今度は自決させないよう細心の注意を払った。

 この男から事情を訊きだし、おおよそのことはわかった。

 童猛は、脅されて呼び出したものの、昴胤たちを助けようと火柱の中に飛び込んで非業の最後を遂げた。

 組織は、最初から昴胤たちを皆殺しにするつもりだった。当初は地図を狙っていたはずだが、ここへきて皆殺し作戦に変更している。

 なぜか。

 捕らえた男からはこれ以上訊きだせなかった。男は、上からの命令に従っているだけだ。

 昴胤は、嵩山少林寺の道宣大師を訪ね、今回の事件のあらましを報告し、あらためて白馬寺への同行を依頼した。白馬寺の曇曜大師が病気療養中とあって昴胤たちは面会がかなわなかったのだが、道宣大師のお供であれば門前払いの心配はないだろう。

「では、よろしくお願いいたします」

「よかろう。ところで、闇の組織が動いておるとのことじゃが、政府は何を考えておるのじゃろうのう。いずれ国の財産じゃからして」

 道宣大師が首をふりながら言った。

「堂々と表からくれば、別の道が開けたかもしれんがのう」

「もし財宝が出た場合、道宣大師はいかがなさいますか」

「達磨大師は、お宝の地図を五つにお分けになった。地図の一部は、長い年月を経て、韓国と日本に流れていった。分かれた五つの地図を一つにしないと財宝にはたどり着かない。それも達磨大師のお心じゃろうて」

「そうしますと、財宝は?」

「ふむ。どうなるのじゃろうのう」


 道宣大師を乗せたクルマと昴胤たちのクルマは、白馬寺を目指した。



更新日:2017-05-26 19:32:29

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❸「ダルマは哭いた」》