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 57 約束②

 夕実は黙って聴いていたが、殺しのライセンスを持っているというくだりで絶句した。誰がどんな権利をもってそんなライセンスを与えるのか。神様仏様であっても許されることではない。しかも、その部隊は公的には存在しないという。

 そんな恐ろしげな部隊に狙われてよく無事に帰国できたものだ。

 夕実は、身震いした。

「地図って、もともと中国の物なんでしょ?」

「ああ、そうだぜ」

「じゃ、返せばいいんじゃないの」

「そう言うと思ったぜ。だけど、一枚は米吉さんのものだからな。返すかどうかは米吉さんが決める。米吉さんが、謎解きを続行しろってよ」

「だって、中国に行けば怪物みたいな部隊に追われるんでしょ? そんな中で謎解きなんてできるわけないじゃない」

 夕実は中国行きをやめさせようとしていた。

「夕実。俺たちは命を狙われたんだ。そのまま黙っていたのでは、男じゃない」

 二人の話しを聴いていた昴胤が、静かに口を挟んだ。

「だって」

 意地を張るために命を失ってもいいというのか。

「夕実の心配はわかる。だが、引き下がるわけにはいかないんだ。もう、その段階を越えている」

「 - - - 」

「だから、これまで、夕実に詳細を伝えなかったんだ」

 押し黙った夕実を見て、昴胤が凜と言った。

「所長、わかりました。もう言いません。でも、絶対に死なないって約束してください。約束してくれなきゃイヤです」

 夕実は、必死に歯を食い縛って涙を見せなかった。

 昴胤たちはこれまでに何度も命のやりとりをしている。夕実も、ある程度想像しているのだろうが、詳細を説明してこなかったので、具体的には何も知らない。詳細を聞いたのはおそらく初めてのはずだ。夕実にとってはショックだったろう。

 夕実はしっかりしている。英検1級、秘書件1級を持っているとても頭の切れるバリバリのキャリアウーマンだ。しかし、ごく普通のOLだ。昴胤たちの過ごしてきた世界とは違いすぎる。当然すぎる夕実の反応だった。

「わかったよ。約束するよ」

 昴胤は、そう言うしかなかった。

「指切り!」

 昴胤の顔の前に夕実が小指を差し出した。

「おいおい、心配してるのは兄貴のことだけかよ!」

 雄大が抗議した。

「俺や周のことも、心配してくれよ。冷てえなあ」

「ユーちゃんは殺されたって死にませんっ!」

 夕実が強く言い返した。



更新日:2017-05-31 10:19:17

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❸「ダルマは哭いた」》