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やから

49 やから①

「ほなら、中国政府が、地図を狙うだけやのうて人殺しまでやってるちゅうことでっか?」

 大阪市。

 大阪市立総合医療センター。岩崎米吉の入院先。

 ベッドに上半身を起こせるまでになっている。

「いえ。証拠があるわけではありません」

 昴胤は、雄大を連れて、見舞いがてら中間報告に来ていた。

「せやけど、さっき聞いた《雪豹突撃隊》とか言うのんは中国の組織でっしゃろ?」

「そうです」

「ほな間違いおまへんがな」

「しかし、第13中隊というのは、公的には存在しません」

「タチが悪いな」

「ええ。そのとおりです」

 財宝があるとすれば、それはもともと中国のもの。所在を表す地図が欲しいならそう言えば良いのだ。それを、皆殺し奪取作戦に出るから話がややこしくなる。

「どうしますか」

 昴胤は一応訊いてみた。地図を中国に渡してしまえばことは簡単だ。

「そんな恐ろしげな輩(ヤカラ)相手では、命がいくつあってもたりまへんな」

 米吉が、心を覗きこむように昴胤の顔をジロリと見た。

 米吉が降りると言うならそれはそれで良い。そのときは調査を独自に進めるまでだ。昴胤は、中止する気はまったくなかった。命を狙われたのだ。

「中国へは、もう行きたいことおまへんやろ」

 米吉が質問をかぶせてきた。

「なぜですか」

「怖いことおまへんか」

「まさか。米吉さんのお好きなように」

「そうでっか。なら、最後まで行きまひょか」

 米吉も降りる気はまったくなさそうだった。

「わかりました。では、続行します」

「しかし、中国政府は最初から地図の存在を知ってたんやろか」

 米吉が、考えるしぐさをした。

「いえ。それはないでしょう。知ってたなら、とっくに地図を5枚とも回収し、財宝も手に入れているはずです」

「そうでんなあ」

「中国政府の動きは、俺たちが動き出してからのことです」

「関係者の中に、スパイがおるっちゅうことでんな」

「そういうことだと思います」

 今ここで考えてもしようがない。いずれわかるだろう。昴胤は、あまり深刻にとらえていなかった。

「それより米吉さん、ひき逃げ犯は?」

 報告は一通り終わったので、昴胤は話題を変えた。米吉の孫が犯人だと言うことを昴胤も知っているが、米吉が何も言わないので、あえてそ知らぬ顔をした。米吉の依頼は、あくまで地図の解明だ。

「ああ、そのことでっか。それはまだでんな」

 米吉に訴える気がないので刑事事件に発展することはないのだろうが、警察は身柄確保に動いているはすだ。


更新日:2017-05-31 10:14:31

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❸「ダルマは哭いた」》