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パク

 38 パク ①


昴胤たちは韓国に来ていた。

パクと雄大は、祗林寺(キリムサ)と浮石寺(プソクサ)がある慶尚道(キョンサンド)に向かっている。

 昴胤と周は、江原道(カンウォンド)の信興寺(シンフンサ)に行ったが、ハズレだった。その後、京畿道(キョンギド)の伝灯寺(チョンドゥンサ)に来ている。ここでもハズレなら、やっかいなことになる。



5日前。

 昴胤は、石垣島離島を訪ねた。中川重次郎個人所有の島だ。八方絶壁のため、船舶での接岸は不可能だ。重次郎専用ヘリで石垣島まで迎えにきてもらった。

 昴胤が久しぶりにここを訪ねたのは、重次郎の秘書兼ボディーガードのパクを借りるためだった。

 韓国語は周が話せるのでその点不自由はないが、韓国に行くに際して、韓国人のパクが一緒の方が何かと都合がいいと判断したからだ。

 重次郎とパクの二人は瓶詰めレター事件(拙書「田川昴胤探偵事務所第一弾《瓶詰めレター》」)以来の付き合いだ。

 気心が知れている。

 あらましを説明しこれから韓国に行くつもりだと言うと、バクを同行させよと重次郎のほうから提案された。

 昴胤は苦笑した。重次郎は自分も参加したいのだ。これは予想しないでもなかった。

 好奇心はあいかわらず旺盛だ。

「ところで、米吉が目覚めたようじゃの」

 話が済んだら、とつぜん重次郎から米吉の話題が出た。

「え、爺さん、米吉さんをご存知で?」

 昴胤は驚いた。

「なんじゃ、聞いてなかったのか。 ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」

 重次郎がさも愉快そうに笑った。

「そもそも、米吉におまえさんを紹介したのはワシじゃからして」

「はぁ? そうだったのですか」

 これで夕実の話しに合点がいった。米吉は所長のことを知っているようだったと。

「米吉はワシの大学の先輩じゃよ」

「そうだったのですか」

「今でも行き来のある数少ない気のおけん友人の一人じゃけん。先輩が、ある日ワシを訪ねてきての。あやしげな地図を持って」

 そういうことか- - - 。

 爺さんは最初から知っていたのだ。

 昴胤ならこの案件を喜んで引き受ける。そして昴胤に預けておけば、いずれ自分も参加できる、と。それで田川探偵事務所を紹介したのだ。さすがの昴胤も、そこまでは読めなかった。

 本当に食えない爺さんだ。

中国の仏教伝来が朝鮮半島では高句麗(コクリョ)から始まったので、伝灯寺(チョンドゥンサ)は現存する朝鮮半島最古の寺院ということになる。

 周が住職との面会を願い出た。中国崇山少林寺道宣大師の紹介状があるので、門前払いされることはない。寺務所に通された。

「拙僧が、住職の曇宋(ドンソウ)でございます」

 細いが背の高い上品で白髭の僧侶が現れた。

「初めまして。こちらは、日本から来ました田川昴胤です。私は中国から来ました周です。よろしくお願いします」

 周は韓国語で自己紹介した。昴胤は日本語で田川昴胤です、とだけ名乗った。



更新日:2017-05-19 16:03:12

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❸「ダルマは哭いた」》