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 30 周 ①
 

〈Osaka Investigation〉の芳野から連絡があったのは、帰国して二日目のことだった。

 米吉が目覚めたらしい。まだ面会謝絶状態だが、家族は病室に入ることを許されたようだ。

 昴胤は、会っておく必要があると思って雄大だけ連れて病院に出向いた。

 入院しているのは、新しくできた大阪市立総合医療センター。

 病院のイメージはなく、大きく美しくてまるでホテルのようだった。

 広すぎてどこに行けば良いのかわからず一瞬立ち止まったら、すかさず年配の女性看護士がスッと前に立った。案内担当のようだ。配慮されている。

「おはようございます。どちらにいらっしゃいますか」 

声をかけてくれたので、見舞いに来た旨を伝えて案内を乞うた。おかげで迷うことなく病室まで来ることができた。

 米吉の病室まで行ったら、ちょうど中から医者が出てきた。米吉の容態を訊いたが、答えてはもらえず、しかも入室を拒否された。起きているならまず本人の意思を確認してくれと医者に言うと、本人が許せば5分だけならと許可された。

 扉の前にスーツ姿の男が二人立っていたので名乗ると、一人が中に入った。男は、すぐに出てきて通してくれた。

 入ると、 病室は、応接室付きの個室だった。

 ギブスに包まれた右足を吊り挙げられ、頭と両手に包帯を巻いた米吉が目だけをこちらに向けていた。

「米吉さん、大変でしたね」

 昴胤が名乗り、雄大が頭を下げた。

「田川はんでっか」

 米吉の意外としっかりした声が返ってきた。

「はい、田川です。お越しいただいた時、ルスにしてまして失礼しました」

 昴胤が微笑を含めて言った。

「聞いてた通り、男前やな」

 米吉の声にも微笑が含まれていた。

「ご容態はいかがですか」

「ご覧のとおり、身動きできまへん」

「ケガは日にち薬です。岩崎さんは休まれる暇のないご多用な方ですから、天の指令だと思ってこの機会にしっかりとご養生なさってください」

「へえ。そないさせてもらいまっさ」

「どころで、犯人の目星はついたのですか」

 昴胤が優しく訊いた。

「まだわからんそうですわ。いずれ捕まりまっしゃろ」

 言った米吉の表情からは何も読み取れなかった。

「ご依頼の件の中間報告ですが」

 昴胤が本題に入った。

「中国の崇山少林寺が起源だとわかりました。まだ、膨大な謎に包まれていますが、なんとかやってみます」

 昴胤が言った。

「ほう、中国の少林寺でっか! ふむ、さよか。おもろなってきましたな。田川はんなら謎を解き明かしてくれると、ワシ、信じてまっせ」

 米吉が声を輝かせて言った。

「岩崎さん、地図は全部で5枚あります。そのうち3枚の所在はわかりました。あと2枚をこれから探します」

 昴胤が説明した。

「あの地図が5枚もでっか?」

「そうです。それから、地図を狙っている人物がいます」

「地図を!?」

「ええ。中国で一度襲われました。今回は逃れましたが、また襲われるでしょう」

「えらいことになってきましたな。大丈夫でっかいな」

 言うほど心配している口調ではなかった。むしろ楽しんでいるようなニュアンスだ。

「はい。大丈夫です」


更新日:2017-05-27 11:32:01

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❸「ダルマは哭いた」》