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29また中国へ⑧
「そやつらをどうしたのじゃ」
「逃がしてやりました」
「うむ。それでよい。で、その賊は、皮革製の地図とはっきり言ったのじゃな」
話した後で道宣に訊かれた。
「はい。はっきり言いました。でも、そいつらは何も知りません。王英というマフィアに地図を奪うように頼まれたと言ってました」
「マフィア?」
「はい。王英はマフィアの幹部です」
「なぜかのう - - -」
「とおっしゃいますと?」
「マフィアはなぜ人を雇ったのじゃ。自分たちでやったほうがてっとり早いじゃろうに。人ならいくらでもいるはずじゃが」
道宣に言われてみれば、たしかにその通りだ。昴胤に通訳した。昴胤もその点が気になっていた。
「地図はあと2枚です。道宣館長、お心当たり、ありませんか」
昴胤が、話題を戻して言った。周が通訳した。
「あと2枚 - - - 。伝説通りとするなら、財宝を隠密裏に処理するのは達磨大師一人ではとても無理じゃ - - - 」
道宣が考えながら話し始めた。
「地図を5枚に分割して保存する発想は達磨大師かもしれんが、それを実際に描いたのは誰か」
昴胤たちは、道宣を注視している。
「達磨大師には、慧可(エカ)と曇林(ドンリン)、それに法道(ホンド)という三人の愛弟子がいたのじゃ。あるいはその三人と共に、この一連の大偉業を成しとげたのかも知れぬな」
道宣が自分の髭をなでながら、周を見て言った。
「つまり、あと2枚はその愛弟子が持っていると?」
周が訊いた。
「一枚がなぜ日本にあったのか。それさえわかれば、残りの地図のありかがわかりそうな気がするのじゃが」
道宣の言葉を逐一周が通訳している。
また何かわかれば報せてくれるように頼み、賊が現れたことで身辺にかたがた注意をしてくれと伝え、昴胤たちは崇山少林寺を辞した。
運転は雄大。クルマを発車させてすぐに口を開いた。
「もしかしたら、組織を通さず、王英が小遣い稼ぎをしようとしたのじゃねえかなあ。ときどきいるんすよ、そういうヤツが」
雄大の先輩に小遣い稼ぎをしようとしてバレた男がいたらしい。
「どうなった、そいつ」
周が訊いた。
「右手首を切り落とされて回状持ちよ」
「カイジョウモチ?」
回状とは、全国のヤクザにまわされる通知状のことで、これをされると、全国どこに行こうが業界では相手にされない。人間扱いされないのだ。
雄大が説明した。
「小遣い稼ぎをしようとしたなら、組織でも知らない情報を王英個人ががどうやって入手したのか、だな。そして、どこまで知っているのか」
昴胤が言った。
「次にどう出るか」
周が続けた。
「個人でできることはしれてる。資金が続かねえからな」
雄大が言った。
「すると?」
周が雄大に訊いた。
「今手に入れたような顔をして、上に報告するのじゃねえか」
雄大が言った。
「王英が持っている情報の質によるな」
昴胤が言った。情報をどこまで掴んでいるかによって、変わってくる。たいして知らなければ、組織に情報を流すかもしれない。だが、伝説を知っていれば一人占めを狙いかねない。
「いずれにしても、王英を捕まえることだ。それも早急にな」
昴胤が言った。
「童猛。王英を知っているって言ったな」
周が言った。
「知ってまっシ。仕事頼まれたことありまっシ」
「何だと! 本当か?」
「一度だけっシ。支払いがきたねっシから、もうつきあっちゃいねっシ」
顔が判別できればそれでいい。王英探しは童猛に頼もう。
「童猛。王英を拐うぞ」
周が童猛に言った。
「なら、俺っちに任せてくれッシ」
童猛が言った。
「童威に言って、子分たちに探させるっシ」
「大丈夫か、おまえの子分だけで」
周が言ったが、童猛は「任せてくれっシ」と胸をたたいた。
更新日:2017-05-27 10:52:42