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昂胤・周、帰国

15 昂胤・周、帰国①


 昴胤(コウイン)と周(ジョウ)が中国から戻った翌日のこと。

「おはよう! 久しぶりに全員揃ったな」
 
 昴胤が言った。
 
 田川昴胤探偵事務所。
 
 昴胤。
 
 夕実。
 
 雄大。
 
 周。
 
 仕事が増えているわけではないのに、雄大を預かり、周が押し掛け事務員でメンバー入りし、所帯は大きくなった。

「まずは夕実からだ」

 この1週間の情報交換だ。

「はい」

 夕実が調べたのは米吉に関するハード面情報だ。家族構成と米吉が立ち上げた事業について、要領よくわかりやすく説明した。さすが夕実だ。

「ご苦労様。よし、次は雄大」

「はい」

 ソフト面情報を仕入れたのは雄大だ。相続人が実は七人いたこと。家族の横の繋がりはなく、米吉を中心に放射線状になっていること。長女と次男だけは仲が良いことなどを説明した。

 ここに来た当初は、会議の席というだけでしどろもどろになって何を言ってるかわからず誰かの通訳が必要だった雄大も、こういったことにずいぶん慣れた。

「ご苦労様。次は俺たちだ。と言っても周が全部やってくれて俺は何もしてないんだ。だから、周に発表してもらう」

 周は、かなり流暢に日本語を使うようになった。

 簡単に説明した。

 少林寺の宝物である地図を貸してもらったことを言うと、雄大がピュ~と口笛を鳴らし、夕実が拍手した。

「周ちゃん、やったね!」

 夕実が言った。

「俺は、別に、何もしてません」

 周は頭をかいた。

「周の人柄が10年経っても信用されてたってことだ」

 昴胤が感想を述べた。

「質問ないか」

 昴胤が言うと、三人とも首を振った。

「大事なのはこれからのことだ。地図を2枚並べてみろ」

 昴胤が言うと、雄大が地図を取りに行った。その間、昴胤と周は、応接室の家具をどけて空間を作った。

 地図が並べられ、あらためて四人で眺めてみた。

 全然違うように見えるが、同じようにも見える。

 地図を見て何かがひっかかったが、昴胤は、それが何かわかった。 普通地図には方位記号が記されているが、それがない。書くのを忘れたのか、これが地図ではなく別の物なのか。だが口には出さなかった。

「何か共通点はないか」

 昴胤が言った。誰も返事しなかった。四人ともしばらく地図とにらめっこをしていたが、夕実が首を傾げながら言った。

「共通点というと、まず皮革製だということでしょ。あと、古さ。それから、筆のタッチでしょ。あと記号や符合なんか一緒よね」

 ここでいったん口を閉じた。

「先を続けろ」

 昴胤が先を促した。

「つまりこの地図は、同じ時期に同じ人、または人たちによって描かれた物だということです」

 夕実は、ここでまた口を閉じた。

「じゃ、地図2枚で2か所の地図ってか」

 雄大が言った。

「そうかもしれないけど」

 夕実が首をひねった。

「私が思うに、この地図は2枚でワンセットなのよ。これを書いた人は頭のいい人ね」

 夕実の分析が続く。



更新日:2017-05-15 16:49:14

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❸「ダルマは哭いた」》