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14 雄大と夕実
「これはね、ドラム・ブルーっていうの。飲んでみる?」
スコッチウイスキーをベースにある薬香草をリキュールで馴染ませ、適度な酸味と穏やかさを出して上品な味を楽しませてくれる。アルコール度は25度以上ある。
「俺はいいよ」
洋酒もいろいろ飲むが、雄大が好んで飲むのは、日本酒だ。
「それで、どうなんだい」
雄大がまた訊いた。
「何が?」
「とぼけるなよ。兄貴と付き合っているのかってことだよ」
「付き合うも何も、まだ、打ち明けてもいないわ」
夕実が、ため息混じりに言った。
「なんだよ、そりゃ」
「いいのよ、それで。所長は私の気持ちをわかってくださってるわ」
「なら、兄貴の気持ちは?」
「 - - - - 」
夕実にはわからない。さすがに嫌われているとは思わないが、女として見てくれているかどうかとなると、心もとない。
「俺が今度訊いといてやるよ」
「やめて!」
夕実が鋭い声を放った。
「そんなことしたら許さないから!」
「兄貴だって夕実ちゃんのことを」
「いいからやめて! そんなことしたら、絶対に許さないわよ」
「わかったよ」
「約束して!」
「ああ。約束するよ」
「破ったら絶交よ!」
「しつけえぜ!」
思わぬ夕実の抵抗に合い、言わないと雄大は約束させられた。
「ユーちゃん。私もユーちゃんに訊きたいことがある」
「何だい」
「私が正直に答えたのだから、ユーちゃんも正直に答えてくれるわよね」
「だから、何だと言ってる」
「お。言ったねー。わかった。じゃ、訊くわよ。アメリカから帰ってから所長のことを兄貴って呼んでるでしょ。なぜなの?」
夕実が、まだこだわっているとは思わなかった。雄大は、そのことだけは誰にも知られれたくないのだ。
一年前。
ウォンジャポクタン事件(拙書「田川昴胤探偵事務所第2弾」)。
昴胤たちは、前代未聞の大事件を起こしたダンを追っていた。
傭兵チームといっしょに⚪⚪基地に潜んでいたダンを発見した昴胤たちは、仲間とともに基地を急襲した。
ところがそのとき、昴胤からの指示を待つ約束を破って米国大統領が米軍グリーンベレーに攻撃命令を出したため、一斉砲撃が始まった。
戦争未体験の雄大を気遣った昴胤から待機命令を受けた雄大だったが、はやる気持ちを抑えきれず単独で基地に乗り込んだ。だが、砲撃のまきぞえを喰らって雄大は吹き飛ばされてしまった。
目が覚めたらベッドの上だった。頭と胸、両手両足に包帯が巻きついていた。身体中痛くて身動きできなかった。
戦場に倒れていた雄大を救いだしたのは、味方ではなくあろうことか敵方のボス、ダンだった。
ダンは、全滅の危機にある自分の傭兵部隊を見捨てて戦場から一人で逃げ出したのだ。その途中、倒れている雄大に偶然遭遇したのだが、どういうわけか捨て置けず、背負って戦場から抜け出しダンの隠れ家まで連れて帰った。
雄大は九死に一生を得たわけだが、救出してくれたのがダンで今自分が敵地のまっただ中にいるとわかり、いつ殺されるかと生きた心地がしなかった。ましてや当時の雄大は、日本語しか話せない。
昴胤とは二度と会えないと覚悟していたが、ケガが治癒するころ、いきなり目の前に昴胤が現れたときには驚いた。
夢でも見ているのかと思ったが、現実だとわかった雄大の緊張の糸は一気に切れ、雄大は、子供のように泣きじゃくった。兄貴、と口から出たのはこのときだった。
雄大が瀕死の重症を負ったことを、夕実は知らない
「そんなこと訊いてどーすんだよ」
「いいから!」
「言わなきゃダメなのかよ」
「ダメです!」
「しょうがねえなあ。わかったよ。兄貴と俺が、童貞をなくしたのは」
何とかごまかそうとした。
「雄大っ! 誰もそんなこと訊いてないっ!」
一蹴された。
「夕実ちゃん、それだけはかんべんしてくれよ~」
「ダーメ」
《ウォンジャポクタン事件》から昂胤のことを兄貴と呼んでいるのが夕実は気になっていた。それまではコーインさんと呼んでいたのだ。ところが、いくら訊いても雄大は教えてくれなかった。だから、この機会に雄大から訊きだそう。夕実は、雄大を逃がすつもりはなかった。
「これはね、ドラム・ブルーっていうの。飲んでみる?」
スコッチウイスキーをベースにある薬香草をリキュールで馴染ませ、適度な酸味と穏やかさを出して上品な味を楽しませてくれる。アルコール度は25度以上ある。
「俺はいいよ」
洋酒もいろいろ飲むが、雄大が好んで飲むのは、日本酒だ。
「それで、どうなんだい」
雄大がまた訊いた。
「何が?」
「とぼけるなよ。兄貴と付き合っているのかってことだよ」
「付き合うも何も、まだ、打ち明けてもいないわ」
夕実が、ため息混じりに言った。
「なんだよ、そりゃ」
「いいのよ、それで。所長は私の気持ちをわかってくださってるわ」
「なら、兄貴の気持ちは?」
「 - - - - 」
夕実にはわからない。さすがに嫌われているとは思わないが、女として見てくれているかどうかとなると、心もとない。
「俺が今度訊いといてやるよ」
「やめて!」
夕実が鋭い声を放った。
「そんなことしたら許さないから!」
「兄貴だって夕実ちゃんのことを」
「いいからやめて! そんなことしたら、絶対に許さないわよ」
「わかったよ」
「約束して!」
「ああ。約束するよ」
「破ったら絶交よ!」
「しつけえぜ!」
思わぬ夕実の抵抗に合い、言わないと雄大は約束させられた。
「ユーちゃん。私もユーちゃんに訊きたいことがある」
「何だい」
「私が正直に答えたのだから、ユーちゃんも正直に答えてくれるわよね」
「だから、何だと言ってる」
「お。言ったねー。わかった。じゃ、訊くわよ。アメリカから帰ってから所長のことを兄貴って呼んでるでしょ。なぜなの?」
夕実が、まだこだわっているとは思わなかった。雄大は、そのことだけは誰にも知られれたくないのだ。
一年前。
ウォンジャポクタン事件(拙書「田川昴胤探偵事務所第2弾」)。
昴胤たちは、前代未聞の大事件を起こしたダンを追っていた。
傭兵チームといっしょに⚪⚪基地に潜んでいたダンを発見した昴胤たちは、仲間とともに基地を急襲した。
ところがそのとき、昴胤からの指示を待つ約束を破って米国大統領が米軍グリーンベレーに攻撃命令を出したため、一斉砲撃が始まった。
戦争未体験の雄大を気遣った昴胤から待機命令を受けた雄大だったが、はやる気持ちを抑えきれず単独で基地に乗り込んだ。だが、砲撃のまきぞえを喰らって雄大は吹き飛ばされてしまった。
目が覚めたらベッドの上だった。頭と胸、両手両足に包帯が巻きついていた。身体中痛くて身動きできなかった。
戦場に倒れていた雄大を救いだしたのは、味方ではなくあろうことか敵方のボス、ダンだった。
ダンは、全滅の危機にある自分の傭兵部隊を見捨てて戦場から一人で逃げ出したのだ。その途中、倒れている雄大に偶然遭遇したのだが、どういうわけか捨て置けず、背負って戦場から抜け出しダンの隠れ家まで連れて帰った。
雄大は九死に一生を得たわけだが、救出してくれたのがダンで今自分が敵地のまっただ中にいるとわかり、いつ殺されるかと生きた心地がしなかった。ましてや当時の雄大は、日本語しか話せない。
昴胤とは二度と会えないと覚悟していたが、ケガが治癒するころ、いきなり目の前に昴胤が現れたときには驚いた。
夢でも見ているのかと思ったが、現実だとわかった雄大の緊張の糸は一気に切れ、雄大は、子供のように泣きじゃくった。兄貴、と口から出たのはこのときだった。
雄大が瀕死の重症を負ったことを、夕実は知らない
「そんなこと訊いてどーすんだよ」
「いいから!」
「言わなきゃダメなのかよ」
「ダメです!」
「しょうがねえなあ。わかったよ。兄貴と俺が、童貞をなくしたのは」
何とかごまかそうとした。
「雄大っ! 誰もそんなこと訊いてないっ!」
一蹴された。
「夕実ちゃん、それだけはかんべんしてくれよ~」
「ダーメ」
《ウォンジャポクタン事件》から昂胤のことを兄貴と呼んでいるのが夕実は気になっていた。それまではコーインさんと呼んでいたのだ。ところが、いくら訊いても雄大は教えてくれなかった。だから、この機会に雄大から訊きだそう。夕実は、雄大を逃がすつもりはなかった。
更新日:2017-05-07 12:36:02