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12 雄大と夕実②
雄大がいつも行くメシ屋に連れて行った。席は14~15というところか。ここは、おいしくてしかもネタが特大なのだ。
「夕実ちゃん、好き嫌いある?」
「なんでもOKよ」
「じゃ、ビフカツ定食がお薦めだ。いいかい?」
「うん」
二人とも同じメニューを頼んだ。
夕実は、普段あまり食べないが、ここのビフカツがおいしくて気がついたら完食していた。雄大は、特盛のお代わりを平らげていた。
「ふー。おいしかった~!」
夕実は、久しぶりに満腹感を味わった。
「だろ?」
雄大は、一杯になった腹をさすりながら言った。
「ユーちゃん、ご馳走さま」
「あいよ」
「でもユーちゃん、恨むからねっ!」
「えェっ!? なんで俺を!?」
「あたりまえでしょ! 今ので確実に3キロ太っちゃったものっ」
「何言ってんだ、食ったの自分じゃねえか!」
「ここに連れてきたのユーちゃんです!」
「マジかよ。おばちゃん、こいつこんなこと言ってるぜ」
ここへはよく来ているようで親しいのか、雄大はメシ屋のおばちゃんに同意を求めた。
「ユーちゃんの負けだね。女の子をここに連れて来たの、お客さんの中でユーちゃんが始めてだよ」
おばちゃんが笑いながら言った。
「こんなかわいい子は、もっとおしゃれな店に連れて行ってあげないと。ユーちゃん、ふられちゃうよ」
「彼女じゃねえよ。おばちゃん、お勘定」
おばちゃんの相手をしていると長くなる。自分で振っておきながら、勘定を済ませて雄大は店を出た。
「夕実ちゃん、飲みに行く?」
二人きりで外で行動するのは初めてなので、せっかくだからと雄大は夕実を誘った。
「うん。いいよ」
だが、雄大がいつも行くところはいわゆる飲み屋と呼ばれている居酒屋で、客は男ばかりだ。さっきおばちゃんも言っていたけど、女の子を連れて行くとこじゃない。昂胤に連れて行ってもらった店ならおしゃれな店が何軒かあるが、そこには何だか行きにくい。
「今度は夕実ちゃんの知ってる店にしようぜ」
「あら、ユーちゃんの行きつけの店でいいのに」
「いやダメだ。女の子が行ってもいいような店は俺、知らねえから」
「さっきので懲りちゃったの?」
「うるせえ。さあ、行こうぜ」
夕実はタクシーに乗った。どこに行こうか迷ったが、和美といつも行くスナックにした。
夕実がいつも座るカウンターに、雄大と二人で座った。ここには以前、佐々木と来たことがある。佐々木には、夕実の愚痴を聴いてもらった。
「夕実ちゃん、強いんだってな、お酒」
座ってすぐに雄大が言った。
「それほどでもないと思うけど」
母親の翔子も夕実もアルコールは好きだが、強いと思ったことはなかった。だが、酔って苦しんだことは一度もない。
「ここへはよく来るのかい?」
雄大が訊いた。
「うん。和美とよく来る」
赤と黒のギンガムチェックのベストを着て、シワにきざまれた額に白髪を一筋たらしたバーテンダーが夕実の前に立った。西部劇に出てくる保安官のようだった。
「夕実ちゃん、いらっしゃい」
「マスター、こんばんわ」
「いつもの?」
「ええ。お願いします」
「ハンサムなこちらのお兄さんは?」
雄大に訊いた。
「俺は、ビールをお願いします」
「あ、グラスふたつお願い」
「はい。承知しました」
ビールで乾杯した。
「兄貴たち、いつ帰って来るんだろ」
雄大がポツンと言った。
「ユーちゃん、ほんとは一緒に行きたかったんでしょ」
夕実が雄大の顔を覗くように見た。
「そりゃ行きたかったさ。だけど今度ばかりはな。俺は中国語が全然わかんねえから」
雄大がいつも行くメシ屋に連れて行った。席は14~15というところか。ここは、おいしくてしかもネタが特大なのだ。
「夕実ちゃん、好き嫌いある?」
「なんでもOKよ」
「じゃ、ビフカツ定食がお薦めだ。いいかい?」
「うん」
二人とも同じメニューを頼んだ。
夕実は、普段あまり食べないが、ここのビフカツがおいしくて気がついたら完食していた。雄大は、特盛のお代わりを平らげていた。
「ふー。おいしかった~!」
夕実は、久しぶりに満腹感を味わった。
「だろ?」
雄大は、一杯になった腹をさすりながら言った。
「ユーちゃん、ご馳走さま」
「あいよ」
「でもユーちゃん、恨むからねっ!」
「えェっ!? なんで俺を!?」
「あたりまえでしょ! 今ので確実に3キロ太っちゃったものっ」
「何言ってんだ、食ったの自分じゃねえか!」
「ここに連れてきたのユーちゃんです!」
「マジかよ。おばちゃん、こいつこんなこと言ってるぜ」
ここへはよく来ているようで親しいのか、雄大はメシ屋のおばちゃんに同意を求めた。
「ユーちゃんの負けだね。女の子をここに連れて来たの、お客さんの中でユーちゃんが始めてだよ」
おばちゃんが笑いながら言った。
「こんなかわいい子は、もっとおしゃれな店に連れて行ってあげないと。ユーちゃん、ふられちゃうよ」
「彼女じゃねえよ。おばちゃん、お勘定」
おばちゃんの相手をしていると長くなる。自分で振っておきながら、勘定を済ませて雄大は店を出た。
「夕実ちゃん、飲みに行く?」
二人きりで外で行動するのは初めてなので、せっかくだからと雄大は夕実を誘った。
「うん。いいよ」
だが、雄大がいつも行くところはいわゆる飲み屋と呼ばれている居酒屋で、客は男ばかりだ。さっきおばちゃんも言っていたけど、女の子を連れて行くとこじゃない。昂胤に連れて行ってもらった店ならおしゃれな店が何軒かあるが、そこには何だか行きにくい。
「今度は夕実ちゃんの知ってる店にしようぜ」
「あら、ユーちゃんの行きつけの店でいいのに」
「いやダメだ。女の子が行ってもいいような店は俺、知らねえから」
「さっきので懲りちゃったの?」
「うるせえ。さあ、行こうぜ」
夕実はタクシーに乗った。どこに行こうか迷ったが、和美といつも行くスナックにした。
夕実がいつも座るカウンターに、雄大と二人で座った。ここには以前、佐々木と来たことがある。佐々木には、夕実の愚痴を聴いてもらった。
「夕実ちゃん、強いんだってな、お酒」
座ってすぐに雄大が言った。
「それほどでもないと思うけど」
母親の翔子も夕実もアルコールは好きだが、強いと思ったことはなかった。だが、酔って苦しんだことは一度もない。
「ここへはよく来るのかい?」
雄大が訊いた。
「うん。和美とよく来る」
赤と黒のギンガムチェックのベストを着て、シワにきざまれた額に白髪を一筋たらしたバーテンダーが夕実の前に立った。西部劇に出てくる保安官のようだった。
「夕実ちゃん、いらっしゃい」
「マスター、こんばんわ」
「いつもの?」
「ええ。お願いします」
「ハンサムなこちらのお兄さんは?」
雄大に訊いた。
「俺は、ビールをお願いします」
「あ、グラスふたつお願い」
「はい。承知しました」
ビールで乾杯した。
「兄貴たち、いつ帰って来るんだろ」
雄大がポツンと言った。
「ユーちゃん、ほんとは一緒に行きたかったんでしょ」
夕実が雄大の顔を覗くように見た。
「そりゃ行きたかったさ。だけど今度ばかりはな。俺は中国語が全然わかんねえから」
更新日:2017-04-10 22:43:52