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雄大と夕実

11 雄大と夕実①


 田川昴胤探偵事務所。

 朝から大阪に出掛けたまま戻らない雄大を、夕実は一人で待っていた。

 昴胤は、お家騒動には興味がないと言いながら、米吉の子供たちを調べろと宿題を残して周を連れて中国に行った。昂胤にしては珍しい。どうしてだろうと夕実は考えた。

 謎の地図を預けたまま、米吉は入院してしまった。地図のように見えるが、地図ではないのかも知れない幾何学模様が描かれた革布。

 しかし、夕実は、たしかにテレビの特番で見たことがあるのだ。果たして何だったのか。それとも夕実の記憶違いなのか。

 万が一、米吉が亡くなった場合、地図をどうすればいいのか。地図の存在を米吉の身内はおそらく誰も知らないだろう。昴胤は、米吉の子供に伝えるつもりなのか。米吉は、一子相伝だと言っていた。すると、長男だけに打ち明けるのか。だが、それでいいのだろうか。

 夕実にはわからなかった。

 昴胤にまかせておけばいいのだ。何か考えがあるはずだ。そう思って夕実は考えるのをやめた。

 岩崎米吉の系図をパソコンにまとめてある。

 ハード面は夕実が調べた。ソフト面は雄大が足で稼いでいる。

 米吉には、 息子二人と娘二人の四人の子供がいた。次男と長女は仲が良い。長男と次女は表面的な付き合いをしているだけだった。

 (株)イワサキ(資本金10億円)は総合商社だ。一部上場している。米吉が一代で築きあげていた。

 米吉が代表権を持った会長、長男が社長、次男が副社長をしている。

 規模が大きいだけで、個人経営の中小零細企業と同じ同族会社だった。

 長女は、岩崎姓を名乗って米吉と一緒に住んでいるが、離婚して戻ってきたようだ。子供はいない。米吉の嫁は病気がちで、入退院を繰り返していた。

 今判明しているのは以上だ。

「ただいま」

 雄大が戻ってきた。雄大は、米吉の家族の噂話や小ネタ集めに朝から出ていた。

「ユーちゃん、おかえり~。遅くまでお疲れさまでした~」

「まだいたんだ」

 7時を少しまわっていた。夕実が残っていると雄大は思っていなかったようだ。お互いキーを持っているから、6時には閉めて帰っているものと思っていたのだろう。

「別にユーちゃんを待っていたわけじゃないから」

 夕実が言った。

「俺を待ってるわけねえよな」

 だが、残ってまでしないといけない仕事は、今はない。雄大は、待ってくれていた夕実の気持ちが嬉しかった。

「そんなことよりその顔は、ねぇ、何かつかんだのじゃない?」

 待っていたとしても、夕実はおくびにも出さない。夕実のいいところが、雄大にも最近よくわかってきた。

「おお、いい勘してるな。そのとおりだ。何だと思う?」

 雄大は、そのことに触れず逆に訊いた。

「まさか、隠し子とか?」

「ビンゴ!」

「えー! ほんとなの!?」

「米吉さんには外に二人、まだ子供がいたんだ」

「うわぉ!」

「しかも、愛人二人に子供が一人づつ」

「ひぇ~!」

「な。俺もびっくりさ」

「でも、よくわかったわね」

「受け付けの子、俺に気があるみたいでな。パスタとスイーツをおごってあげたらペラぺラと」

「あはは。よく言うわ。それ、ただのワイロチクリじゃない」

「いや、そんなことはない。 あの子は俺に気がある」

「一人で言っとけ!」

「夕実ちゃん、これから何か予定ある?」

「別に」

「じゃ、メシ行かないか」

「ユーちゃんと二人で? おごっちしてくれるの?」

「ああ。たまにゃな」

「じゃ、行く」

 雄大は、二人で個人的な行動をとったことがなかった。しかし、今日は気がつけば誘っていた。待っていてくれたお礼がしたかったのかもしれない。


更新日:2017-04-29 14:26:58

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《田川昂胤(こういん)探偵事務所❸「ダルマは哭いた」》