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プロローグ 起き抜けの春休み
「ふあぁ…」
我ながら豪快なアクビをする。頭が重い。昨日はゲームしながら飲んでいたから二日酔いかもしれない。気怠(けだる)げにベッドから身を起こし目覚まし時計に目をやる。
キラリと秒針が光り、既に昼ごはんの時間をとうに過ぎている事を示していた。秒針の音が鳴らないタイプの時計だ。この前ホームセンターで買ってきたのだ。
俺は隙間から光が漏れ出ているカーテンをスライドさせて窓を開けた。薄暗い部屋に春の陽気な空気が部屋に入り込む。深呼吸。
いくら春休みだからと言っても流石にこう毎日昼過ぎまで寝ているのは良くないか。昨日なんて起きたら午後五時だったしな。まるで充実しない時間を過ごしている自覚はある。こういうのを時間を空費しているって言うらしい。
この前母さんから電話がかかってきて何で平日の真っ昼間から電話に出るんだと言われたが、今は春休みだと伝える。「宿題頑張ってね」と言われたが、変に干渉されるのも嫌なので「お、おう」なんて誤魔化しておいた。頭の良くない大学になると宿題は無いのだ。自慢する所では無いが。
どうやら家でゲームばかりしていてもお腹だけは減るようで、俺は簡単な身支度をして家を出た。都内の大学に入って二年。このワンルームの部屋にも慣れた。最初は一人暮らしに夢を見て親の鑑賞の無い日常が楽しかったが、毎日炊事洗濯をしないといけない現実は面倒なのだ。母は偉大だ。
玄関から外に出て、鉄製の扉がゆっくりと閉じてガチャンと鍵を締める。
田舎なら二階からの風景は実に良い物だろうが、都会ではそうも行かない。三百六十度どこを見ても家やビルが立ち並び、大通りに出れば車の排気や人混みで空気の新鮮さが無い。
俺は寝起きの頭で色々考えながら近くのコンビニに向かった。母さんが勝手に一番安いところなんて言うものだから近くと言っても徒歩十五分はかかる。ちなみに最寄りの駅においては二十分もかかるのだ。
「いらっしゃいませー」
店員のやる気のなさそうな声を背に、新作のカップラーメンとポテチを商品棚からセレクト。お金を払って袋を受け取った。
母さんにはちゃんとご飯食べていると言っているが、実は毎日大好きなラーメンを食べている。特に味噌ラーメンが大好きなのだ。大学の友達連中は豚骨サイコー! とか叫んでるが、どうもあの臭いが苦手で豚骨系のお店の前を通るのも辛い。
コンビニを出て大通りを少し歩く。このまま突き当りを左に曲がれば家に着く。今日もラーメンを食べてゲームして寝る。そんなニート一直線な思考回路を巡らしていると。
ふと立ち止まる。
「ん? こんなところに道なんてあったっけ」
人がギリギリ入れそうな路地。家の塀と塀の間に偶然できた隙間。桜の木が数本塀の上から突き出している。毎日同じ道というのも味気が無いので、なんとなく俺はその道を通ることにした。なんとくなく。本当になんの気もなく。
実際、入ってみると想像以上に狭かった。歩けば歩くほど幅が狭まりジャージが塀のコンクリートに擦れる。とうとうこれ以上進めなくなってしまった。
なに子供みたいな事してるんだか。軽い自己嫌悪に襲われた俺は踵を返して後ろを振り向いた。
「陽炎…?」
目の前の風景が陽炎のように揺らいでいた。怠惰の生活を送りすぎてついに頭まで溶けてしまったか。ホント嫌になるな。ため息を付いて気にせずその揺らぎに向かって歩く。塀の隙間から上がってきた雑草を跨ぎ一歩また一歩と。
「危ない!」
突然甲高い声が耳を突き抜けたと思うとガシャーンと大きな音が聞こえた。
浮遊感。俺の身体は左から出てきた何かに突き飛ばされて宙を舞って地面に叩きつけられた。何が起きたか理解が出来ず、瞬間的に目を閉じてしまった。後頭部に強い痛みを感じた。
目を細めていた俺はゆっくりと目を開ける。
「お前何者だ! なんでこんな所に一人で来たんだ!?」
緑色の瞳が俺を叱咤した。わけが分からなかった。頭を整理しよう。
恥ずかしながら子供のように路地裏を歩いていて、陽炎みたいなのに向かって歩いていたら突然金髪の鎧を来た女に突き飛ばされて。金髪の女?
「…え」
「え、じゃない! あと少しであいつの餌食になるところだったんだぞ!」
胸ぐらを捕まれ左頬を殴られた。その拍子に視線が明後日の方向に向く。頭のなかに本当に星が見えたのはこの時が初めてだったが、そんな事にはかまっていられそうではない。
「な、なんだこれ!」
何しろその先には巨大なドラゴンのような赤い生き物が翼を広げて雄叫びを上げていたのだから。
我ながら豪快なアクビをする。頭が重い。昨日はゲームしながら飲んでいたから二日酔いかもしれない。気怠(けだる)げにベッドから身を起こし目覚まし時計に目をやる。
キラリと秒針が光り、既に昼ごはんの時間をとうに過ぎている事を示していた。秒針の音が鳴らないタイプの時計だ。この前ホームセンターで買ってきたのだ。
俺は隙間から光が漏れ出ているカーテンをスライドさせて窓を開けた。薄暗い部屋に春の陽気な空気が部屋に入り込む。深呼吸。
いくら春休みだからと言っても流石にこう毎日昼過ぎまで寝ているのは良くないか。昨日なんて起きたら午後五時だったしな。まるで充実しない時間を過ごしている自覚はある。こういうのを時間を空費しているって言うらしい。
この前母さんから電話がかかってきて何で平日の真っ昼間から電話に出るんだと言われたが、今は春休みだと伝える。「宿題頑張ってね」と言われたが、変に干渉されるのも嫌なので「お、おう」なんて誤魔化しておいた。頭の良くない大学になると宿題は無いのだ。自慢する所では無いが。
どうやら家でゲームばかりしていてもお腹だけは減るようで、俺は簡単な身支度をして家を出た。都内の大学に入って二年。このワンルームの部屋にも慣れた。最初は一人暮らしに夢を見て親の鑑賞の無い日常が楽しかったが、毎日炊事洗濯をしないといけない現実は面倒なのだ。母は偉大だ。
玄関から外に出て、鉄製の扉がゆっくりと閉じてガチャンと鍵を締める。
田舎なら二階からの風景は実に良い物だろうが、都会ではそうも行かない。三百六十度どこを見ても家やビルが立ち並び、大通りに出れば車の排気や人混みで空気の新鮮さが無い。
俺は寝起きの頭で色々考えながら近くのコンビニに向かった。母さんが勝手に一番安いところなんて言うものだから近くと言っても徒歩十五分はかかる。ちなみに最寄りの駅においては二十分もかかるのだ。
「いらっしゃいませー」
店員のやる気のなさそうな声を背に、新作のカップラーメンとポテチを商品棚からセレクト。お金を払って袋を受け取った。
母さんにはちゃんとご飯食べていると言っているが、実は毎日大好きなラーメンを食べている。特に味噌ラーメンが大好きなのだ。大学の友達連中は豚骨サイコー! とか叫んでるが、どうもあの臭いが苦手で豚骨系のお店の前を通るのも辛い。
コンビニを出て大通りを少し歩く。このまま突き当りを左に曲がれば家に着く。今日もラーメンを食べてゲームして寝る。そんなニート一直線な思考回路を巡らしていると。
ふと立ち止まる。
「ん? こんなところに道なんてあったっけ」
人がギリギリ入れそうな路地。家の塀と塀の間に偶然できた隙間。桜の木が数本塀の上から突き出している。毎日同じ道というのも味気が無いので、なんとなく俺はその道を通ることにした。なんとくなく。本当になんの気もなく。
実際、入ってみると想像以上に狭かった。歩けば歩くほど幅が狭まりジャージが塀のコンクリートに擦れる。とうとうこれ以上進めなくなってしまった。
なに子供みたいな事してるんだか。軽い自己嫌悪に襲われた俺は踵を返して後ろを振り向いた。
「陽炎…?」
目の前の風景が陽炎のように揺らいでいた。怠惰の生活を送りすぎてついに頭まで溶けてしまったか。ホント嫌になるな。ため息を付いて気にせずその揺らぎに向かって歩く。塀の隙間から上がってきた雑草を跨ぎ一歩また一歩と。
「危ない!」
突然甲高い声が耳を突き抜けたと思うとガシャーンと大きな音が聞こえた。
浮遊感。俺の身体は左から出てきた何かに突き飛ばされて宙を舞って地面に叩きつけられた。何が起きたか理解が出来ず、瞬間的に目を閉じてしまった。後頭部に強い痛みを感じた。
目を細めていた俺はゆっくりと目を開ける。
「お前何者だ! なんでこんな所に一人で来たんだ!?」
緑色の瞳が俺を叱咤した。わけが分からなかった。頭を整理しよう。
恥ずかしながら子供のように路地裏を歩いていて、陽炎みたいなのに向かって歩いていたら突然金髪の鎧を来た女に突き飛ばされて。金髪の女?
「…え」
「え、じゃない! あと少しであいつの餌食になるところだったんだぞ!」
胸ぐらを捕まれ左頬を殴られた。その拍子に視線が明後日の方向に向く。頭のなかに本当に星が見えたのはこの時が初めてだったが、そんな事にはかまっていられそうではない。
「な、なんだこれ!」
何しろその先には巨大なドラゴンのような赤い生き物が翼を広げて雄叫びを上げていたのだから。
更新日:2017-03-25 20:39:49