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ユリウスを伴ってマルコーに顔を見せた。嬉しそうに鬣をふり、アレクセイに顔を寄せてくる。

「どうどう、わかった、わかった」

愛馬の鼻ずらを撫でるアレクセイは嬉しそうだ。もちろん、マルコーもしきりに鼻を鳴らしている。

「あなたが来ると、マルコーは本当に嬉しそうだね」
「そりゃそうだ。こいつが仔馬の時から世話をしてきたんだからな」
「今日はゆっくりできるの?」
「いや・・すまないが時間がない。ようやくレーニンが帰国をして本格的に動いていくことになるからな」

マルコーの身体を撫でながらユリウスを見る。少し俯き寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔を向けてきた。

「大丈夫。あなたは自分の仕事を頑張ってね」

いつものように輝くような笑顔だ。
すまないと思いながら、アレクセイは彼女の身体を抱きしめた。

「アレクセイ」
「おばあさまを頼む。おまえも身体を大切に」
「うん」

少し膨らんできた彼女のお腹をそっと撫でた。くすぐったいような微笑みを浮かべてアレクセイの胸にほほを摺り寄せた。

「かあさまを頼むぞ」

ひざをつき、ユリウスの腹部にそっと唇を寄せた。彼の亜麻色の髪を細い指で梳く。その時、ぽこんとお腹の中の子どもが蹴ったような感覚があった。

「あ、蹴ったよ」

顔を寄せいていたアレクセイも感じたのか、照れくさいように微笑んだ。

「これが蹴ったのか?」
「そう、この頃元気がよくて、くるくる回っているような感覚があるんだ」
「ふふ、元気がよくていい。さすがおれの子だ」

すっと立ち上がると、ユリウスのほほを両手で包み優しく微笑んだ。

「おまえと元気なお腹の中の子どもを感じることができて、力が湧いてくるよ。心配をかけるがおれは大丈夫だ」

唇を重ねると、彼女から甘く香しい香りが鼻孔をくすぐった。前にも増してだ。
身体のしなやかさ柔らかさは変わらないが、彼女が醸し出す甘い香りは一層強くなった気がした。
何度も顔の角度を変え、彼女の唇を堪能する。時間を惜しむようにアレクセイは身重の妻を抱きしめた。

「あなたの子どもが生まれる前に必ず来てね。約束して」
「ああ、必ず」

黄金の髪に顔を埋め、その香りを思いきり吸った。華奢な両腕が彼の逞しい背中に回され、ぎゅっと抱きしめる。

離れがたかったが、時間がない。ゆっくりとアレクセイはユリウスから腕を離した。

「じゃあ、いってくる」
「いってらっしゃい」

いつものように妻の額にそっと唇を寄せ、元来た道を戻っていった。

残されたユリウスは、彼が触れた自分のほほを自分の手で包んだ。

その時ざわっと風が吹いた。
ユリウスの髪を巻きげるような強い一陣の風。

「え・・・」

ドレスの裾を押さえようとした時にはその風は収まっている。

「なんだろう・・・いまのは・・・」

なぜか心がざわついた。
アレクセイの後姿を見送るなど、もう何百回としてきたのに今日は締め付けられるような感覚が起こってきた。

更新日:2018-06-27 00:11:08

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