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マルコーの背に揺られ、アレクセイの胸にほほを寄せた。自然と手を最近ふくらみを増したお腹の上に置く。
その様子を愛おしそうにアレクセイが見つめていた。

「ずいぶん膨らんできたな」
「そう?まだまだ大きくなるそうだよ」

顔を上げて、馬を操る夫を見つめる瞳はきらきらと輝いている。

「この頃、お腹の中でポコポコ音がするようになったの。お医者様に聞いたら、赤ちゃんが動いている音なんだって」
「う、動くのか?」

アレクセイの声がひっくり返った。

「ちょっと早いそうなんだけど、たま~にポコンって」

少し恥ずかしそうに微笑む彼女の横顔は母の顔をしているような気がした。大きな手をそっと妻のお腹にあてて、愛おし気に撫でた。

「俺は男だからイマイチ実感がわかないが、会うたびにおまえの腹が膨らんでくるのを見ると、俺たちの子がこの中にいるんだと確信できるぜ」
「ふふ・・・」

彼の手の上に自分の手を重ねて、鳶色の瞳を見つめる。自然と二人の顔が近づき唇を重ねた。
寄り添っていたユリウスの体をさらに引き寄せ、彼女の唇を貪るようにすると、彼女もそれに応える。会えない時間を埋めるかのように、重ねた唇を通してお互いの思いを注ぎ込んだ。

「アレクセイ・・・」

唇がわずかに離れると、ユリウスが甘えるように囁く。一瞬、彼女の碧い瞳に宿った官能の光をアレクセイは捉えた。

「一回りしたら戻ろう」

手綱を操りマルコーの歩をすすめながら、更にほほを自分の胸にする寄せるユリウスの髪に軽くキスを落とした。


屋敷の中に設えられた自分の部屋にアレクセイと戻り、ドアを開けてたユリウスが瞳を見開いた。

「これ・・・」

部屋の中にはいつも数個の花瓶が置かれ、そこには色鮮やかな花が生けられている。ところが、今日生けられているのは、春に咲く可憐な白い花束だった。
あの日、二人が夫婦となった日にアレクセイが贈ってくれたスズラン。それ以来、スズランが咲くころには必ずアレクセイが贈ってくれる。それはささやかだが誠実なアレクセイの愛の表現だった。
今年はアレクセイが来れるかわからないから、裏庭に自生しているスズランを摘もうかと思っていた。

「こんなにたくさん・・・」

一つ一つの花瓶に歩み寄って白い花を指でそっとなぞった。

「持ってくるの、大変だったでしょう?」

振り返って見た夫は、恥ずかしそうにそっぽを向いている。
毎年、スズランを贈ってくれる時もぶっきらぼうに渡す。その仕草がユリウスにとってはうれしくて仕方がないのだが。

「ねえ、聞いているの?」

ユリウスに返事もせず、手近の花瓶から一房スズランを抜き彼女のそばに歩み寄るとその金色の髪に差した。

「似合うぜ」

見上げる彼女を見つめる瞳は飛び切り優しい色を浮かべている。
そのまま両手でユリウスのほほを包むとチュッと音を立てて、そのバラ色の唇にキスをした。

「ありがとう。今年はもらえないかと思ってたから、とっても・・ん・・・」

最後まで彼女に言葉を言わせず塞いだ。さらに華奢な体を引き寄せ、情熱をこめて深い口づけを彼女に与えた。顔の角度を幾度か変えているうちに、ユリウスの髪に差していたスズランが床にはらりと落ちる。
それを合図かのように彼女の身体を抱き上げた。

「アレクセイ・・・」
「ちょっと重くなったか?」
「赤ちゃんいるんだもん」

夫の首に両手を回しながら、少しほほを膨らませた。

「それでも軽いくらいだぜ。もうちょっとふっくらしてくれたら、抱き心地もよくなるってもんだ」
「な・・・何言ってんの?!」

何年経っても、この手の話をすると真っ赤になる初々しさがアレクセイにとってはたまらず愛おしい。
ゆっくりとユリウスをベッドに横たえ、乱れた髪を撫でつけながら口付けを繰り返すと、彼女も白い指をアレクセイの髪に絡みつけ、彼の口づけに応える。彼の熱い唇が彼女のほほをすべり、耳朶を甘嚙みすると甘い吐息が聞こえてきた。

久しぶりの逢瀬は、否応なく激しくなる。
身ごもった身体を気づかおうとするが、艶やかな表情で煽情されるとアレクセイも自分を抑えきれなくなっていた。いつものように彼女を求め、彼女もアレクセイの腕の中でしなやかな身体をくねらせ、応えてくる。
何度も彼女を高みに突き上げ、存分に乱れさせた。

高波のようにうねりを上げていたものが、潮が引くように落ち着いてきた。
アレクセイの肩に頭を預け、白い指で彼の胸板を撫でている。彼は彼で、ユリウスの髪を指に絡ませ玩んでいた。

「たくさんのスズラン、ありがとう。すごく嬉しい」
「寂しい思いをさせている詫びじゃないが、俺にできることはこれくらいだからな」

そんなことないとばかりに首を横に振りながらしがみついてきた。膨らみ始めたお腹を押さえないように抱きしめる。

「ね・・・もう一度・・・」

見上げてきた碧い瞳は濡れて煽情的なまなざしだった。

更新日:2017-07-31 14:43:01

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