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身についた習慣のせいか、決まった時間に目が覚める。それはこのミハイロフ家に来てからも同じだった。
つわりの頃はさすがにそこまでのことはなかったが、体調が落ち着くといつものように、いつもの時間に目が覚めた。
召使たちが起こしに来る前に起きだして身支度を整える。この頃では、厨房にまで顔を出し、朝食の準備を手伝おうとするからオークネフが慌ててとめる。

「ユリウス様、どうぞお部屋でお待ちくださいませ」
「どうして?朝食の用意くらいできるよ。いつもやっていたことだもの」

ユリウスはしれっと言いのけるが、オークネフにしてみれば主人の孫嫁が厨房で食事の支度など考えられない。

「と、とにかく、お部屋でお待ちくださいませ。主家の方がいらっしゃるところではございません。リザ!」

ユリウス付きのリザを呼び、ともかく彼女を厨房から出した。
ぶつぶつ言いながらもユリウスは言われるとおりに厨房から自室に戻った。
朝食を終え、ヴァシリーサとひと時の語らいを終えたのち、自室に戻ったユリウスはリザに問いかけた。

「ねえ、どうしてぼくが厨房に立つのはだめなの?」

洗濯物を箪笥に片付けていたリザが振り返る。

「ユリウス様はお料理がお好きですか?」
「うん、アレクセイと暮らし始めた時は失敗ばかりだったけど、彼が美味しいって食べてくれるのがすごく嬉しいの」

碧い瞳をキラキラと輝かせて答えた。

「貴族の家では、よほどのことがない限り主家の方が料理をなさることはございません。ご自分のお子様のお食事もシェフが作ります。そうでないと、シェフをはじめとする者たちの仕事が無くなってしまいますから」
「おばあさまもお料理はなさらない?」
「そうでございますね。それが普通ですから」

確かにユスーポフ家にいた時は料理などしようとは思わなかった。出されたものをいただく、それだけだ。手を付けることもしないこともあった。
今から思えば、かなり贅沢な食卓だった。
アレクセイと暮らすようになって、一般庶民がどのような食生活をしているのか、身をもって体験した。
まだ、自分たちは恵まれた方だとも感じた。

「毎日じゃなくてもいいの、おばあさまにぼくの手料理を召し上がって頂きたいんだけど」
「それなら、アレクセイ様がおいでの時にお作りになってはいかがですか?ユリウス様の手料理をアレクセイ様と召し上がる、きっとおくさまもお喜びになりますよ」
「そうだね、それなら厨房のみんなの仕事がなくなるわけじゃないし」

碧い瞳をひときわ輝かせて、満面の笑顔をした。

更新日:2017-06-07 07:41:43

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