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ヴァイオリンをケースに片付け、楽譜を数冊取り出した。
パラパラとめくってみると、譜面のあちこちに文字が綴ってある。
曲の解釈や弾くときの強さ弱さ、どのような気持で弾けばいいかなど書き込んである。書き込んだ日付まで書いていた。
ふと、口元が緩む。
書き込んだのは10歳を過ぎた頃だろう、ヴァイオリンに夢中で先生に言われた事を忘れないように常に書き込んでいた。
どの楽譜にも書き込みがある。
ヴァイオリンを弾くことが楽しくて楽しくて、勉強をすっぽかしてまで弾いていた。当然、おばあさまにはこっぴどく叱られたが・・・・
ベッドの上に腰を下ろした。
一冊、一冊ページをめくる。めくる度にその時の情景が浮かんできた。
この国に戻ってから、記憶の奥底に仕舞っていた音楽に対する情熱とドイツでの生活。
おれは本当に音楽が好きだった。ただ、兄貴の遺志を継ぐために音楽を振り捨てたが、おれの心の奥には音楽に対する情熱がまだ残っていたようだ。
どのくらいそうして楽譜を見ていただろう、ドアをノックする音に顔を上げた。
寝室の入り口に立っていたのは、金色の髪を戴いた天使だ。
「何を熱心に見ているの?」
スラリとした肢体を包んでいるのは、若葉色のドレス。胸元をあまり開けず、スクウェアカットの淵には細かいレース。たっぷりと袖をふくらませ、袖口にも胸元と同じレースがあしらってある。少しお腹が膨らんできたのか、ウエストを絞らずゆったりとしたシルエットになっていた。
スカートをつまみ、優雅に近づいてきた。
「楽譜だ。おれが子どもの頃に使っていた」
「見せてもらってもいい?」
おれの隣に腰を下ろすと、手元の楽譜に顔を寄せた。
ユリウスに楽譜を渡し、彼女の腰を引き寄せ髪にキスを落とした。
「エチュード?」
「そうだな。10歳くらいの時のだ」
「へえ、いっぱい書き込んでいるね」
「おれはいつもこうやって楽譜に書き込んでいた。音楽学校に行っていた時もこうだったな」
パラパラと楽譜をめくると、どのページもびっしり書いてある。ユリウスが嬉しそうに楽譜をめくっていた。
「合わせてみるか?」
「え?」
驚いたように顔を上げる。
「おれのヴァイオリンとおまえのピアノを合わせてみるか」
おれの言葉におまえの顔がぱあっと明るく輝く。にっこりとほほ笑むとおれに抱き着いてきた。
「いいの?嬉しい!」
「ああ、おれもおまえと合わせたいからな。伴奏をしてくれるか」
「うん」
ずっと、おれはユリウスのピアノ伴奏でヴァイオリンを弾きたかった。
一度だけ、合わせたことがあったが、あの時の記憶をこいつは無くしている。だから、ここで一緒に弾いてみたい。
立ち上がったユリウスがおれの楽譜を抱えている。
「楽譜は音楽室にあるだろう」
「ちがうよ、これはゆっくり後で見せてもらうの!」
「おいおい、粗が見えるだろうが」
「さすがのアレクセイ・ミハイロフも子どもの頃のは恥ずかしいの?」
「なんだと!」
彼女の手を引っ張って腕に抱きとめる。先ほど肌を合わせた時も感じたが、身ごもる前より柔らかくなったように思う。もともと、しなやかで柔らかい身体をしていたが、硬さが取れ柔和になってきている。表情もそうだ。
「アレクセイ」
碧い瞳がおれを見つめる。ゆっくりと顔を寄せ、薄紅色の唇に自分のを重ねた。
パラパラとめくってみると、譜面のあちこちに文字が綴ってある。
曲の解釈や弾くときの強さ弱さ、どのような気持で弾けばいいかなど書き込んである。書き込んだ日付まで書いていた。
ふと、口元が緩む。
書き込んだのは10歳を過ぎた頃だろう、ヴァイオリンに夢中で先生に言われた事を忘れないように常に書き込んでいた。
どの楽譜にも書き込みがある。
ヴァイオリンを弾くことが楽しくて楽しくて、勉強をすっぽかしてまで弾いていた。当然、おばあさまにはこっぴどく叱られたが・・・・
ベッドの上に腰を下ろした。
一冊、一冊ページをめくる。めくる度にその時の情景が浮かんできた。
この国に戻ってから、記憶の奥底に仕舞っていた音楽に対する情熱とドイツでの生活。
おれは本当に音楽が好きだった。ただ、兄貴の遺志を継ぐために音楽を振り捨てたが、おれの心の奥には音楽に対する情熱がまだ残っていたようだ。
どのくらいそうして楽譜を見ていただろう、ドアをノックする音に顔を上げた。
寝室の入り口に立っていたのは、金色の髪を戴いた天使だ。
「何を熱心に見ているの?」
スラリとした肢体を包んでいるのは、若葉色のドレス。胸元をあまり開けず、スクウェアカットの淵には細かいレース。たっぷりと袖をふくらませ、袖口にも胸元と同じレースがあしらってある。少しお腹が膨らんできたのか、ウエストを絞らずゆったりとしたシルエットになっていた。
スカートをつまみ、優雅に近づいてきた。
「楽譜だ。おれが子どもの頃に使っていた」
「見せてもらってもいい?」
おれの隣に腰を下ろすと、手元の楽譜に顔を寄せた。
ユリウスに楽譜を渡し、彼女の腰を引き寄せ髪にキスを落とした。
「エチュード?」
「そうだな。10歳くらいの時のだ」
「へえ、いっぱい書き込んでいるね」
「おれはいつもこうやって楽譜に書き込んでいた。音楽学校に行っていた時もこうだったな」
パラパラと楽譜をめくると、どのページもびっしり書いてある。ユリウスが嬉しそうに楽譜をめくっていた。
「合わせてみるか?」
「え?」
驚いたように顔を上げる。
「おれのヴァイオリンとおまえのピアノを合わせてみるか」
おれの言葉におまえの顔がぱあっと明るく輝く。にっこりとほほ笑むとおれに抱き着いてきた。
「いいの?嬉しい!」
「ああ、おれもおまえと合わせたいからな。伴奏をしてくれるか」
「うん」
ずっと、おれはユリウスのピアノ伴奏でヴァイオリンを弾きたかった。
一度だけ、合わせたことがあったが、あの時の記憶をこいつは無くしている。だから、ここで一緒に弾いてみたい。
立ち上がったユリウスがおれの楽譜を抱えている。
「楽譜は音楽室にあるだろう」
「ちがうよ、これはゆっくり後で見せてもらうの!」
「おいおい、粗が見えるだろうが」
「さすがのアレクセイ・ミハイロフも子どもの頃のは恥ずかしいの?」
「なんだと!」
彼女の手を引っ張って腕に抱きとめる。先ほど肌を合わせた時も感じたが、身ごもる前より柔らかくなったように思う。もともと、しなやかで柔らかい身体をしていたが、硬さが取れ柔和になってきている。表情もそうだ。
「アレクセイ」
碧い瞳がおれを見つめる。ゆっくりと顔を寄せ、薄紅色の唇に自分のを重ねた。
更新日:2017-05-15 22:47:39