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帝都・サンクトペテルブルクから約3000キロ離れたトボリスクで育った。
父親はミハイル・ミハイロフ侯爵。母親はマリア・ユロフスカヤ。
母マリアはミハイロフ家で奉公をしていたと聞いている。明らかに身分の違う二人が愛し合い、おれが生まれた経緯は詳しくは聞いていない。

分かっているのは、父と母は愛し合っていたこと。両親は幼いおれにあふれんばかりの愛情を注いでくれたこと。

大自然の中でおれはのびのびと育った。
母は、取り立てて厳しいしつけを課す人ではなく、おれを引き取ったおばあさまがおれの奔放さにあきれていた。
おばあさまは貴族らしい貴族の婦人だったから無理もない。
ただ、腹違いの兄・ドミートリィはおれをそのまま受け入れてくれた。

おれがこの屋敷にきて、あてがわれた部屋を見て驚いた。
(侯爵家なんだから当然といえば当然だが)

高い天井、大きな窓にはビロードの分厚いカーテンとそれに合わせたレースのカーテン。
貴族らしい雰囲気があるが、華美に走ることなく程よくバランスのとれた家具調度品。
部屋の中を呆然と眺めるおれに執事だというオークネフが声をかけてくれた。

「どうされましたか?坊ちゃまがお越しになるからと、おくさまが自ら選んで揃えられたんでございますよ」
「おばあさまが?」

驚いた。初対面でおれの母親を蔑んだ言葉をはき、名乗ることすらしなかった祖母。
(そのあとで、おれが一喝して名乗ってもらったが)
到底、かわいがってもらえるなど思えない。

オークネフは部屋を案内してくれた。

「ベッドはこの奥にございます。クローゼットの中に箪笥など衣類を入れるものを置いております」

部屋の右奥に扉があり、その中に入ると大きな天蓋付きのベッドがある。2~3人くらい一緒に寝れそうだ。

おれは唖然とした。
これが貴族の館なんだ。
トボリスクの家もそれなりに大きいと思ったが、そもそものサイズ感が違いすぎる。

「ここを使っていいの?」
「もちろんでございます。そのためにおくさまがご用意なさったのですから。今日からアレクセイ坊ちゃまのお部屋でございます」

14歳になるまで、ここで過ごした。

更新日:2017-05-09 22:42:36

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