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小説

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それまでのこと

体調を崩したユリウスを抱えて、久方ぶりに育ったミハイロフ家に向かった。
兄が刑死され、それ以来足を踏み入れたことはない。

家を守る年老いた祖母のことを想わないことはなかったが、自分と兄のしでかしたことを受け入れてもらえるとは思っていなかった。事実、兄が捕らえられた後、会おうとしたが祖母はそれを拒んだのだった。

育ったトボリスクから引き取られたのは6歳だ。

父が亡くなり、ほどなくして母も世を去った。
詳しくはわからないが、母は父と正式な婚姻関係を結んでいなかったようだった。それでも父は遠く離れたトボリスクまで足しげく通ってくれた。

おれは父が大好きだった。

漆黒の髪に漆黒の瞳。背が高く逞しい体躯。

兄のドミートリィと会ったとき、わずかに記憶していた父を思い起こさせてくれた。
おれを抱きしめ、兄弟だと認めてくれた。

祖母は厳しく、野育ちのおれには窮屈極まりなかった。たびたび反発し祖母を困らせたものだ。

兄が捕らえられ、おれもお尋ね者になってしまった。由緒正しい侯爵家は弾劾され爵位をはく奪された。

シベリアから生還したおれはユリウスに再会した。二度と会えないと思っていた不滅の恋人。
おれを追って、見つかるかわからないおれの為にすべてを捨てたユリウス。そのために記憶を失っている。おそらくおれのせいだ。
それでもおれと共に生きると言ってくれた。おれの傍でおれの妻として生きると。
事実、おれと一緒になって4年が過ぎた。
貴族の家に長く逗留していた彼女が、市井の暮らしをするにはかなりの努力が要ったはずだ。
それでも愚痴ひとつ言わず、いつも明るく朗らかにおれを支えてくれる。

そんなユリウスが高熱をだし、意識もはっきりしない状態になった。

おれは一瞬、逡巡した。


更新日:2017-03-12 21:52:29

Еще одна история オルフェウスの窓