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小説

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二人の交情

挿絵 536*367

「お義父さん、これからのことを話し合いましょう」
家に帰りついた二人は居間に座った。

今までの生活とは違う、空気が一変したような感じである。
美代が逝ってしまってから家の中に虚しさに襲われていた。

しかし善吉には庄衛がいる、そして庄衛には善吉がいると思ってくれていると信じていた。
それが音を立てて崩れ去ろうとしている。

「善吉、悪かったな」
庄衛は言う。
何か久しぶりの会話のような気がする。
善吉はほっとする。

「今までのことはおおかたわかりました」
「これから、どうするかを話し合いましょう」
善吉が問いかける。

「どうすることも出来ないよ、善吉には悪いが・・」
「善吉にはこの家だけでも残して置きたかった」

「悪いが善吉にはここを出て行ってもらいたい」

「何を言うのです、お義父さん」
「とりあえず、明日この家をがいくらになるか掛け合ってきます」

善吉は初めて知ったことがたくさんあった。
田畑の類はすでに人手に渡っていて残された財産らしきものはすでに家を除いて残ってはいなかった。
二人が使っている車もずいぶん古くて金銭的な価値はなかった。

家の査定も終わっていて敷地200坪だけが約400万円という、建物はほとんど価値はないという話であった。

「善吉、人はいずれ死ぬものだ」
「わしとて平均寿命からしても十年は残ってはおらん」
「幸代と美代が向こうで待っている、早く行ってやりたいしな・・」

「おまえは二十年はある、人が生まれて成人するまでの期間に相当するんだぞ」
「だから、お前はここを出てやり直してほしい」

「何を言うんですか、お義父さんは・・・」

庄衛はもう生きる気力を失っていると善吉は思った。
どうすれば庄衛に生きる気力を取り戻させることができるのだろう。

ただ、それが叶ったとしても借金の重みが変わるわけではなかった。

「お義父さんが死ぬつもりなら、善吉も死にます」
「幸代からお義父さんの事を頼むって頼まれました」
「だから一生お義父さんのそばを離れません」

「どうしても出て行けというなら、善吉を殺してください。幸代のそばへ行かせてください」
「そうすれば、向こうで一緒に善吉もお義父さんを待っていられます」

「困った奴だ・・・」

庄衛に善吉の身を預けることで庄衛は自身を取り戻したようであった。

「きょうは何か食べて寝るとしよう」

「何か用意しますからお義父さんは先に風呂にでも入ってください」

「ああ」言うなり庄衛は風呂に行く。

少しずつ平常に戻り始めたような気がした。

今思い詰めてもなにも始まらない、まだ時間は残されている。
その時間を大切にしたい。

善吉が仏間の食卓にお茶漬けと漬物とを用意する。
義母が無くなってからはずっと食事は仏間で取るようになっていた。
幸代と美代とが一緒に食卓に座っているように思えるからである。

風呂上りに浴衣を着た庄衛が食卓の前に座る。
風呂上がりの庄衛はいくらか生気を取り戻したようである。
善吉の大好きな庄衛に戻っていた。

善吉が風呂から上がると庄衛はもう床に就いていた。

善吉の寝間は以前の庄衛たちの寝間を引き継いでいた。
そして庄衛の寝間は以前庄衛の義父が使っていた寝間である。

善吉は布団に入って考えた。
成り行きに任せればあと半年利息を払いながら何とか食いつなぐ。
にしても、その先は保険金頼みである。
それも庄衛の死亡保険金が勝俣たちに支払われて一切が完了する。

馬鹿げていると思うがすぐには手段が思いつかなかった。
ただ庄衛がいなくなると言うことは理解できなかった。

思えばもうずいぶん昔のことである。
庄衛と親しくなって、娘の幸代を知り合った。
庄衛の思惑通りであろう善吉と幸代は結婚して庄衛の息子になった。

それなりのサラリーマン生活を過ごしていたが庄衛の妻の美代の体調不良が出て結局は庄衛の家に入った。

庄衛は必要ないといったが現実的には無理であった。
ハウス栽培と露地物の農業は忙しくて一人ではできなかった。

農業はその機材の投資額も大きくて利益の出ない仕事である、人を雇うことはできない。
幸代とともに神奈川の家を売り払い秋田の実家に戻った。

お金は何も残らなかったが美代も感謝してくれたし幸代も喜んでくれた。
もちろん庄衛も口には出さないが顔を見ればわかった。

何より善吉は庄衛と一緒に農作業をして、生活することが充実していた。

すっかり善吉も百姓になって行った。
服装も庄衛譲りであった。

更新日:2017-03-11 16:52:26