• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 17 / 28 ページ

続く苦悶

男は庄衛を勝俣の事務所に通した。

「会長、爺さんを連れてきました」

「おっ、ごくろう」
奥から勝俣が現れる。

「爺さん、元気そうだの」
勝俣は庄衛に声を掛ける。

「今更何の用かな?」
庄衛は訝しげに勝俣の顔を眺める。

「こいつが話した通り爺さんにとっては良い話があってな」

「爺さんを雇いたいというお方がいる」
「もちろん借金の肩代わりをしてもらう訳だから普通の雇用とは違うのは承知の上でだな」

「この前の爺さんの面接写真を見て興味を示してくれた人が現れた」

この前の面接の体の写真は撮られていたのである。
この手の人間の考えることだ、それは当然かもしれない。
庄衛にとっては恥ずかしい写真だが彼らの手に落ちてしまった以上何があっても不思議ではなかった。

それらのことは庄衛は覚悟をすでにしていた。
ただ善吉の配慮で一旦は半年の平穏が約束された後だけにいくらかの悔いがあった。
しかしそれを自らの意思で覆したのである。
もう後戻りはできないことは分かっていた。

全てを受け入れるしかなかった。
これも自分の蒔いた種、せめて善吉を巻き込まないようにしなければならない。

彼らの商売は人身売買に等しいものであった。

多くは若い女性が対象となったいて、その需要も当然多い。
しかし世の中は種々雑多な人間の寄せ集まりである。
何を正常というか異常というかは単に数の論理に過ぎない。

つまり庄衛のような老人でも需要はあったのである。

勝俣の言う見受け人は隣町の建築会社を興した人物であった。
水島という七十なかばを越しているであろう老人である。

すでに隠居の身であって町はずれに大きな屋敷を構えていた。
聞くところ一人住まいで賄いは通いの家政婦が出向いているという。

水島は前金で一千万を渡し庄衛のことが望み通りであれば残金を支払うという。
表向きは庭師として雇いたいと言う話であった。

大勢の前で恥を晒す余興をやらされるよりずっとましだと勝俣は言う。
庄衛にとってはどちらも大同小異の世界であった。
もうすでに身は捨てている。

ただそのような経験は当然のことながら庄衛にはなかった。
いくら覚悟してもその苦痛は予期できる範疇を超えていた。

勝俣は庄衛を車に乗せると隣町の水島の屋敷に向かった。

出てきた老人はひとかどの財を築いた男である。
それなりの貫禄を思わせた。

身なりはいかにも隠居といった風情で木綿の着物に茶羽織の小奇麗な装束である。
体躯は庄衛より小ぶりでどちらかというと痩せ気味の老人であった。

「あんたが、その人か」
「写真で見た通りのようだの」
老人は何気なく品定めをしている。
あからさまの態度ではないところを見るとそれほど無法の世界の人間ではなさそうであった。
何かわからないが、別の世界の人には思えない何かを感じさせる。

老人はあえて庄衛の姓名は口にしなかった。

「いかがですか?水島さん、お引き取り願えますか?」

「ああ、よかろう」

「何かあればすぐに連絡をください、飛んできますから」
慇懃に老人を見ながら挨拶をして
「爺さん、これからの心がけが大切だぜ・・・心しておいてくれよな」
庄衛には捨て台詞の体のセリフを言うなり勝俣は帰って行った。


水島老人は穏やかな表情で庄衛を眺める。
庄衛はただ黙って身構えるしかなかった。

「あんたの名前はここでは吾平と呼ぼう、以前の自分はもう捨てることだな」

「この家には哲という召使いがいる、彼があんたの面倒を見ることになる」

そこから庄衛の新たな地獄が始まるのであろうか。

哲と呼ばれた男は四十なかばで見るからに無愛想な男であった。
体は筋肉質で明らかに召使いと屋敷の用心棒を兼ねているのは理解できた。

老人は庄衛をどうしたいのかは庄衛にはわからなかった。

そしてこの家での衣服を与えられた。

下着は白のもっこ褌であった。
紺の作務衣を着せられ、昼間はこれで過ごせということらしい。

夜は別の衣類が用意された。

そのまま数日が過ぎた。
昼間はその名の通り庭師のような仕事をして過ごした。
広い庭の掃除、そして剪定などである。


そしてある夜、襦袢が与えられそれを身に着けた。

老人の寝間に着くと布団の脇に座る。

更新日:2017-03-11 16:09:39