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二人の絆

善吉はふと考えた。
似たようなことは前にもあった。

きっと庄衛は善吉を待っている。
そうに違いない。

それは善吉が庄衛との同居を初めて十数年が経ったころの事であった。

善吉は庭先にバルコニーを作ろうと思い立った。
いろいろな本を取り寄せては勉強をした。

そしてその材料を入手するために近くの製材所を訪ねた。
そこは庄衛も以前からよく知った仲であった。

昔からの事業を営んでおり土地では資産家として有名であった。
そこを経営する弥太郎は庄衛とは同級生であった。

村の中学校を卒業すると街に出て高校に通った。
そして当時としては珍しく大学に進学した。
それほど優秀な成績ではなかったのであろう、聞いた大学は俗に言う二流大学であった。
しかし村では秀才で通しかつ資産家であって羨望の眼差しで眺められる身であった。

その経歴通り庄衛とは異なる洗練された紳士然とした容姿で女遊びも盛んだと噂になっていた。

面と向かっては控えているようであるが百姓をして出稼ぎで生計を立てる庄衛のたちを蔑んでいるようでもあった。

ただ善吉に向かってはそれなりの学歴も知られており一目置く様子が窺いしれた。

バルコニーの材木を調達するために弥太郎の家に行くと弥太郎がわざわざ直接に対応してくれるのは珍しいことであった。
それは弥太郎が善吉を特別扱いしている証でもあった。

度々弥太郎と打ち合わせをするうちにいろいろと話をするようになった。
時には打ち合わせの後、薦められて飲み交わすこともあった。

庄衛は初めは気にする素振りも見せなかったが、日が経つうちにそれは庄衛にとっては心穏やかなことではなくなってきた。

あるとき、庄衛が風呂に入っているとき善吉に声を掛ける。
「善吉、悪いが着替えを取ってきてくれ」
「はい、今持っていきます」
善吉は脱衣所に庄衛のふんどしと浴衣と帯を持って行く。
すると庄衛はもう風呂から上がるところであった。
庄衛は素っ裸で善吉に向かって肌着を受け取る。
善吉は庄衛の素っ裸をこれ見よがしに見せられると戸惑った。
思わず肌着を手渡して踵を返して戻る。
ある時は、風呂の中から声を掛ける。
珍しいことである。
今までは石鹸がないときくらいしか呼ばれない。
それも持って行くのは美代か幸代であった。

「善吉、悪いが背中を流してくれんか」
旅行に行ったときに浴場で背中を流すことは普通にあったが家での経験はなかった。
善吉は嬉しかった。

庄衛が本当に裸になってくれている。
それだけ心を許してくれている。
あらためてうれしさを噛みしめる。

背中を流す。
腕は黒く日に焼けているが背中からお尻にかけての庄衛の肌はきれいであった。
歳相応の魅力が感じられて善吉は昂ぶりを感じる。
腰かけた脚はその中心を想像させて魅惑的であった。

背中を流し終わると庄衛は意外なことを言う。
「よかったら、前も洗ってくれるか」

「えっ、とうさん、前も・・」
庄衛には見られたくなかった。
善吉の股間は痛いほどに固くなっていた。

「前は、自分で洗えるでしょう・・・・」
「うん、そうだな・・」
善吉が同意しない以上は重ねては口に出せることではなかった。
庄衛は仕方なく相槌をうつ。

善吉は背中に湯をかけて流し終わると外に出る。

それから数日した時のことである。
庄衛は突然行先も告げす旅行に行くと書置きを残して出て行った。

(最近疲れたから、ちょっと休みを兼ねて旅行に行ってくる。二三日したら帰るから)

初めての事である、家族は驚いた。

美代が言う。
「こんなことは始めてよ、父さんはどうしたんのかしら、心配だわ」
幸代も同じようなことを言う。

「最近、お義父さんは疲れてたみたいだったし、ゆっくりしたいのでしょ」
「今日はそってして置きましょう、電話でもかかってくるでしょう」
善吉も親中穏やかでなかったが気休めを二人に言う。

その日は電話もなく、家族は寝付かれない夜を過ごした。

「お父さんは、私より善吉さんの方が好きみたいだから、善吉さんに何か言わなかった?」
幸代が言うと、美代も同じようなことを言う。
「そう、そう、父さんは善吉さんが一番みたいですよ、善吉さん心当たりないの?」

「ぼくは後から入った人間ですから、お義父さんは気を使ってるんですよ」
「にしても、何も心当たりはありませんよ」
善吉は考えた、庄衛はどこに行ったのだろう?

ひょっとして以前温泉に家族で旅行したことがあった。
あそこかもしれない・・・。
「ぼくに、ちょっと心当たりが・・ひょっとしたらですけど・・」
「今夜も連絡がなかったら明日行ってみます」

善吉は思い出していた。
以前、温泉に旅行して庄衛と二人部屋で過ごした時のことを。

その夜も庄衛からの連絡はなかった。
翌朝、善吉は宮城県の鳴子温泉に向かった。
そこの以前泊まった旅館を訪ねてみることにした。

その旅館に着いたのはもう夕方であった。

更新日:2017-03-11 16:08:04

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