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小説

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義父の悶え

毎週の利息払いの度に庄衛は考えた。
(こんなことはしていてはいけない、善吉を解放してやらないと・・)

三度目の利息払いが終わった日の夜、庄衛は切り出した。
「善吉、もうわしはこんな生活は嫌だ・・・」

「どういう意味ですか、お義父さん」

「もう、お前に世話になっているような生活は嫌だと言ってる」
「毎日、毎日・・顔つき会わせて・・顔を見ているだけで苦しくなってくる」
庄衛は善吉の視線を避けて話す。

「どうしたの?お義父さん」
「信頼していてくれたんじゃなかったの?」

「幸代がいたときは娘が世話になっていると思って我慢してた」
「だがもう幸代もいないし、お前とは何の関係もない」

「もう四十年からの付き合いですよ、そんな言葉おかしいです」

「しかし、わしは嫌になった、嫌なものは嫌だ」
「だから、ここを出て行ってくれないか」

「嫌です、善吉はお義父さんが好きです」
「だから、ずっと離れません」

「お前が好きでもわしは嫌だと言ってる」

「お前が出て行かないなら、わしが出ていく」

「どこへ出ていくんですか?」
「どこへもいけないのは、お義父さんが一番よく知ってるじゃないですか」

「その、物言いが嫌いなんだ」

「そんな・・・・」
善吉は庄衛を見て膝でこぶしを握り締める。

(お義父さん、どうしたの・・お互いが好きだと確信してたのに・・・)
思わず善吉の眼から涙が溢れてくる。

「お前が、わしのことを好きだというなら、わしのことを聞いてくれてもいいじゃないか」
「わしはおまえが嫌いになってきたのだからおとなしく出て行ってくれ、お願いだから・・」

お互いに無言の時間が過ぎていく。
この時間は永遠に続くように思えた。

善吉は家を出ることにした。
一応毎週の利息分の金銭は用意できたのだからあと五か月はここに庄衛は居るはずだから大丈夫だろう。

庄衛と離れるのは耐え難いことだが庄衛がそれを望むなら善吉がこれ以上我を通すことはできなかった。

善吉も仕事がある。
毎日通える距離である。
善吉はとりあえずの住宅として会社の寮に入れるように総務に頼み込んだ。
持ち出す荷物は旅行バックに入る最小限のものにした。

善吉のものを持ち出すように庄衛は言わなかった。

庄衛は畑へ出かけて善吉が出ていくのを見届けることはしなかった。

そして数日が過ぎた。

車で来た男が庭先で農作業をしていた庄衛に声を掛けた。
「爺さん、会長が話しがあると言ってます」
「ちょっと一緒に来てくれませんか」
勝俣の使いのようである。

「利息は約束通り払っている、用はないはずだが」
庄衛は無表情に答える。

「くわしい話は会長として下さい」
「何か借金をチャラにするいい話があるようですよ」

「どうせ、うさんくさい話しだろうが」

「今日は息子は不在ですか?」

「善吉は関係ないとい言っただろう・・」

「いえいえ、そういうわけじゃなくて・・」
「この屋敷とかは息子さんのためにも残したいのじゃないのですか?」
「一度聞いた方が良いですよ、嫌なら断ればいいし」

庄衛は善吉に家を残せる手があるとは思えなかったが一応話を聞くことにした。

「今、着替えてくるからちょっと待ってくれ」
言うなり庄衛は家に入る。

庄衛は風呂場に向かい服を脱ぐ。
パッチの腰ひもを解くとそれを脱ぐ。
下はいつものふんどし一枚である。
上着も脱いでシャツも脱ぐ。
ふんどしを外すと濡らしたタオルで体を拭く。

着替え用の服を探す。

肌着入れの箪笥は庄衛の肌着を入れる引き出しと善吉の肌着の引き出しが分かれている。

庄衛はふと思いついたように善吉のそれを開ける。
そこには善吉が身に着けていた肌着がしまってある。
出ていくとき全部を持ち出すことはできなかった。

それを見ると庄衛は善吉を思い出した。
善吉の体を包んでいた肌着・・・やるせない思いであった。
しかし仕方がない、これは善吉のためにせざるを得ないことだったのだ。

庄衛は善吉が勤めに出るときに身に着けていた肌着のブリーフを手に取った。
せめて善吉の名残を身に着けておこうと考えたのである。

着替えを済ませると庄衛は男の車に乗り込んだ。



更新日:2017-03-11 16:05:07