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小説

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義父の窮地

庄衛の妻美代の葬儀が終わってもうずいぶんと経っている。
だが庄衛の態度は思い詰めたような様子がだんだんと悪化しているように思われた。

帰宅した善吉は仏壇の前で寂しそうにうなだれて座っている庄衛を見た。
その後ろ姿は声を掛けることが憚れる雰囲気を醸し出していた。

しばらくすると庄衛は着替えを始めた。
いつも部屋着にしている作務衣を脱ぐとその下はふんどし一枚である。
それも外すと洗ったばかりのきれいなふんどしを身に着ける。
庄衛は常時越中ふんどしを着けているが、外出に際して着けかえて出かけるには理由があるように思えた。

その上にステテコを履くと普通のズボンに開襟シャツを身に着ける。

「善吉、ちょっと出かけてくる。今夜は遅くなるから夕食は勝手にとってくれ」
そう言うなり自動車に乗り込むと走り去っていった。

善吉は気になっていた。
義母の葬儀からずっと元気なく過ごしていたがそれは身内を失った喪失感からだと思っていた。

だが長い闘病生活から義母の美代が解放されたのである。

苦しむ美代の闘病生活は本人は当然であるが周囲の人間も同じような苦痛がともなった。

もう顔も見られない、温もりを感じる肌もない。
それはそれでさみしいことであった。
だが長い苦しみから解放されたという安ど感もあったはずである。

もう一か月が過ぎようとしているのに庄衛は日常を取り戻すことができないでいる。
一人娘の幸代も善吉に嫁いだが事故で早くに亡くしている。
善吉を除くと天涯孤独の身となった、そのショックは尋常でないのはわかってはいた。

善吉は庄衛の身の回りの調べてみることにした。
小さな文机の引き出しに封筒が重ねて置いてあった。
少しの罪悪感はあったが善吉はそれを見てみることにした。

それを見て驚いた。
それは金銭の借用書であった。

考えてみれば医療費はずいぶんと掛かったはずである。
難病指定の病で先進の医療費は保険では賄えないものである。

合計すると約350万円位になる。
悪いことに借入先は正規の金融機関ではなかった。

少し離れた町の中にある勝俣興業というやくざがらみの会社であった。

庄衛の行き先はそこに違いない、善吉は後を追った。
車を飛ばして追ってきたお蔭で庄衛が玄関を入ろうとするところで見つけた。

「お義父さん、なにをしにいくのですか?」
ぎょっとした様相で庄衛は振り返って善吉を見る。

「おまえは・・・」
「善吉、お前には関係ない・・早く帰れ」

「でも、わけを聞かせてください」
押し問答をしていると中から中年の男が出てくる。

「永井さんじゃないですか、やっと来てくれましたね」
「おや、息子さんもご一緒でしたか?」

「息子は関係ない、中に通してくれ」

「いえ、ちょうどよかった息子さんも一緒に話を聞いてくださいよ」
下手な言葉づかいとは裏腹に目つきは鋭く嫌とは言わせない雰囲気である。

庄衛はもう諦めたように肩を落とす。

案内された部屋は小さな応接間のようなところであった。

そこには見た目には普通の会社員と言った風情の熟年の男が座っていた。
「会長、連れてきました」

「永井さん、決まりましたか?」

「お義父さん、一体どうなっているんですか?」
「教えてください」

「おや、おや・・・息子さんは何もご存じない・?」
「おいっ、説明してやってくれ」

会長と呼ばれた男は案内してきた男に指示する。

「永井さんへの融資額は合計350万円、半年前に融資済み」
「現在、一部返済を差し引いて残高1250万円」

「これで間違いないですね、永井さん」

「借りた金は間違いないが、どうしてそんな残金があるんだ」
「当社の規定の金利計算ですから間違いないですよ、前にも言ったでしょ」
「要は借りた金を返してもらえばそれでいいんです」

善吉は言う。
「そんな暴利は違反だぞ・・」

「えっ、何か言ったか?」
「言葉使いには気を付けるんだな」
男が凄む。

これは既定の路線であろう、それにはまってしまったのである。

善吉にはその金額を立て替える蓄財はなかった。

「もっと具体的に話してやれ」
勝俣は言う。

「分かりました、会長」

「おい、お前もよく聞いておけ」
善吉に向かって話し出す。

それによると
医療費の工面に困った庄衛は担保なしでも融資してくれるところを探してここに行きついた。
返済は一部したもののすぐに行き詰って滞納しているという。
かなり前から返せ、返せの脅しは始まっているようであった。

融資した時に庄衛には生命保険も掛けられた。
残金の中にはその掛け金も含まれているようである。

自殺は一年の免責があって保険は降りない。
一年までの期間を利息だけでも払わせるということであった。

更新日:2017-03-11 15:51:56