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トンネルの幽霊

風が生暖かい。
嫌な空気だ。
きっと来る。何か来る。

うわさは知っている。
このトンネルには高校生の霊が出る。
「代わってくれよ、俺と・・・」
おぞましい声でそう言うらしい。

それは私には関係のない話。
代わる理由なんて無いし。
・・・作ってくれるんなら、別だけど。
毎日が憂鬱で仕方がない。
君がそれを変えてくれるなら、代わってあげても、いいよ。
いるかどうかもわからない――きっと
もうすぐ来るとは思っているけど――
幽霊に向けてつぶやいた。

「じゃあ、代わってくれるよな」

声に振り向く。
目に入る学ラン姿。
「代わってくれよ・・・」
ゆっくり近づいてくる。
どうでもいいや。
逃げないで待っている。
幽霊は不気味に笑いながら近づいてくる。
近づいてくる。
近づいてくる。
目の前で立ち止まると、
「代わってくれるんだな?」
少し嬉しそうな顔になった。
「代わってあげるよ」
もっと嬉しそうになる。
顔はやっぱり不気味だけど。
「君が私のお願い、聞いてくれたらね」
少し不思議そうな顔をする。
どんなお願いなのか、少し不安なのかもしれない。
でも、代わってもらえる嬉しさの方が勝っている。
お願いが何かはわからないだろう。
わかるわけがない。
一歩踏み出して腕を伸ばす。
幽霊だからすり抜けると思ったけど、すり抜けなかった。
驚いたらしい相手に抱きついて、
「ね、私のこと、好きって言ってよ」
返事はない。
顔は見えない。
固まっている。
「嘘でいいから、ね、ね・・・ね」
返事はない。
顔は見えない。
固まっている。
「一回だけでもいいから・・・ね、ね」


憂鬱は晴れない。
代わっちゃったから。
彼にはきっともう会えない。
何であんなことを言ったんだろう。
あれは私の初恋なのかな、と思うと
なんだかおかしくなった。

更新日:2017-03-10 23:16:57

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