官能小説

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ゆれる

「何だよ。人の顔見てニヤニヤと」
 こっち見て、嬉しそうに笑ってる相葉さんに言う。
「ううん。何でもない。ニノだなぁって、思って」
「何ですか、それ。訳わかんないこと言ってないで、もう仕度できたんですか?チャックは?ちゃんと閉まってますか?」
「大丈夫だよっ」
 そう言いつつ、でもしっかり確認してる相葉さんを見ながら、嬉しくなっていた。
 最近、みんなが優しい。いや、今まで優しくなかったってことじゃなくって、俺がみんなの優しさに気付けるようになったってこと、かな?目の前に差し出された手に気付かなかった。いや、気付いても、それを助けだとは思えなかった。今までも、そうやって色んな人の手を借りて、ここまでやってきたっていうのにね。
 忘れてたんだ。独りの殻に閉じ籠って、周りの人たち、全部、見て見ぬふりしてた。逆に、そうしてほしいって思ってた。だって俺は、あの人に置いてけぼりを食らって孤独になってたからね。そう自覚はしてなかったけどね。実際、俺はちゃんと仕事してたし。いっぱい人にも会って喋ってたし。それで、却って、どんどん孤独は深まっていったんですけどね。
 でも、Jが教えてくれた。
 いつでも傍に居るって。みんなが傍に居るって。
 それに気づいて、周りを見てみたら、みんなが優しく微笑んでくれるから、俺も自然に笑顔が増えた。
 嬉しいね。ホントに。気に掛けてもらえることが嬉しい。
 中でも本当に嬉しかったのは、Jが俺のこと、そこまで心配して、全部見ててくれたってことだよね。
 無遠慮に踏み込んで来るでもなく、何かを押し付けるでもなく、ただ見守ってくれてた。あのJがだよ?!ホントにありがたいよ。
 だけど、なんで俺なの?Jほどの人なら、他にいくらでも相手はいるでしょうに?
 なんで俺、なの?
 想いはいつも同じ所をぐるぐる巡る。
 小さな不安が芽生える。拠り所を求めて、俺はあの人の笑顔に縋ろうとして、目の前にあるJの手から視線を外す。
 霧の中を彷徨う様に、俺はどうもできなくなって立ち止まる。
 そんな状態の俺でも、ちょっと前よりはマシなようで、それで、相葉さんはニヤニヤしてるんでしょうね。恐らく。
 そんなこと思いながら彼を見ていたら目が合って。そして、再び満面の笑みを返された。返された俺もニヤついて。
 これじゃキリがないってか、周りから見たら気持ち悪いだろうな。目が合う度、二人でニヤニヤと。ねっ?!
「雅紀、何ニヤついてんの?俺、妬いちゃうよ?」
 相葉さんの後ろに、不意に現れた翔ちゃんが唇を尖らせた。
「やだ、何言ってんの?!翔ちゃん!そんなこと…!ねっ?!ニノ!」
 おいおい。俺を巻き込むな。お宅ら二人は勝手に仲良くやってなさい。いやいや、程々に仲良くやんなさい。
 こないだの翔ちゃんったらなかったよ。
 俺が相葉さんから離れなかったせい?余程燃えたんだろうね。次の日、目の下の隈。それに疲弊感が半端じゃなくて。あれぞ正に色疲れ。
 俺は反省しました。あんな翔ちゃん、人前に出せませんからね。もう関わりませんよ。
「翔ちゃん、大丈夫。誰もあなたたちの仲を邪魔したりしません」
 俺は翔ちゃんに囁いて、二人の傍を離れた。そして、自然と部屋の中に誰かを捜して視線を泳がせて、そして、それの止まった先。そこに、Jが居た。
 スタッフと真剣に話し込んでるJ。
 胸の中に、ポツンと小さな火が灯る。
「え…?」
 話し終えたJがこちらを向き、近づいてきた。
 視線を外さなきゃって思うのに、俺はそのまま釘付けになって。ゆっくり大きく打つ自分の鼓動を聞いていた。
「ニノ?どうした?ボーっとして。出番だよ」
「あ、ああ…悪い」
「どうした?声、ガッサガサだな?」
「んっ!んんっ!!だ…大丈夫」
 Jがクスクス笑う。
 胸の火が、静かに、着実に、俺をあっためていく。あの人の影が薄くなる。思い出したら堪らなくなるのに。辛くて苦しくて、もういっそ忘れてしまいたいって願っても消えないもんだと思ってた…。
 それを、Jの笑顔が遠くへ押し退けてしまう。
 そんなの嫌だ。そんなのダメだ。
 だけど、自分の気持ちなのに自分でもどうにもできなくて…。
 俺の中で、何かが走り始めてた。
 どうしよう?ねぇ、大野さん、助けてよ。
 どうしたらいいんですか…?

更新日:2017-03-03 13:33:22

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