• 2 / 2 ページ
(! ! ! ! ! )
 そこまでで、美尋の視界は切り替わった。目の前には、見慣れた天井。
 美尋は自宅の自室のベッドで眠っていたのだ。
(夢……)
 大きく息を吐きつつ、上半身起き上がり、学習机の上に目をやる。
 そこには、乾いた血液が付着しているためにくすんだ金のボタン。俊矢の制服の第2ボタンだ。
 美尋は両手で顔を覆う。
 今日は卒業式だった。その後の下校デート。
 いつもの河川敷で階段を下りている最中、第2ボタンを欲しいな、と言ってみた。
 現実の俊矢は、この制服は4月から弟が使うことになってるからダメ、と断った。
 瞬間、何故だか美尋の脳裏を、あの2年生の可愛い子の姿が過る。
 頭のてっぺんから爪先まで体の中身だけがグワンと大きく掻き混ざった感じがした。
 一瞬、本当に一瞬だが、意識が飛んでいた。
 ハッと気づいた時、美尋の両腕は前方へ突き出され宙を泳いでいた。そして、目の前にいたはずの俊矢がいない。
 嫌な予感がし、恐る恐る、階段の自分の立っている段から下を見下ろす。
 俊矢は階段を下りきった場所にいた。仰向けに転がり、左側頭部と左の手の甲から血を流して……。
 美尋の頭の中は真っ白になった。誰かに操られているような、何かに引き寄せられるような感覚で、ゆっくりゆっくりと俊矢の許へと階段を下り、その傍らに膝をつく。
 力無く地面に横たわる俊矢を、美尋は、キレイ……、と、暫し見つめた。
 揺すっても、俊矢の反応は無い。
 第2ボタン欲しいな、と、もう一度言ってみる。
 ダメって言わないの? くれるの? じゃあ、もらうね。ありがとう。
 美尋はカバンの中から携帯用の裁縫セットを取り出し、糸切り用の小さなハサミでボタンを丁寧に切り離して、その場を立ち去った。
 そうして自分の物となった、机の上の、俊矢の第2ボタン。
 指の隙間に見て、美尋は笑う。


                     (終)

更新日:2017-02-22 01:10:30

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook