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小説

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文学への目覚め


 五 文学への目覚め

 いまでも憶えているが、きみには姉がいて妹がいて、弟がいた。そして、籍には入っていないが、八尾さんという男性がいた。この男性は、後にきみに「お父さん」と呼ばれるようになるが、その当時は、所謂きみのお母さんの「若い燕」、すなわち姉さん女房の同居人という位置づけだった。
 私も、そしてきみを訪ねてくる私と共通の友達も、家族みんながその男性を八尾さんと呼んでいたが、なんら違和感も覚えず、普通に接していた。いってみれば、きみにとっては父親代わりの、そして我々にとっては兄貴分の、ちょっと恐持てな存在が八尾さんというわけだった。
 苗字がヤから始まるので、陰で彼のことをいうときは「ヤーさん」と言っていた。
顔つきがすこぶる厳つかっただけに、まさにヤーさんと見紛う風体の男であったが、その実、極道者でもなければ博打うちでもなく、極めて真摯な愛書家だった。
 読書のドの字もしたことがなく、怠慢なうえに自堕落な中学一年生だった私が、毎週のように学校にあった図書館に通い、数冊の本を借りて読み始めたのも、ひょっとしてこのひとのお陰もあるのかもしれない。

更新日:2017-04-08 13:07:13