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専任バリスタ

ワインにソムリエ。
珈琲にバリスタ。

専門知識なんて全然ないけど、自分をバリスタと呼びたくなる時がある。

そう。例えば、こんな朝。


「んー・・・。」

目覚ましの音と共に、まおの声がする。
ベッドからすんなりとした腕がうーんと伸びをする。

ちょうどその時、ケトルがぴーっと警告音を鳴らす。
ゆっくり、じっくり、丁寧に。
コーヒー豆がふんわりと湯気を含むように、お湯を注ぐ。

ふわっと香り立つ香ばしい香り。

もぞもぞとシーツにくるまり、再び眠りに落ちようとするまおのところに行く。

「ほら。起きろよ。」
「んん・・・。」

寝ぼけ眼であくびをしながら目をこする。
はねっかえりの強いくせ毛も、頭までシーツにもぐるのも、毎朝繰り返される光景だ。

シーツごと抱きしめて、わずかな隙間からキスをする。
くすぐったそうにまつ毛が震える。

「ほ~らっ。ま~おっ!」
「んふふ。おはよ。」

ゆさゆさと揺さぶり。
ちゅ。ちゅ。とキスを繰り返し。

数分後に我が家の眠り姫様はやっと目覚める。


ぽてぽて。

ベッドからリビングまでのたった数メートルの距離を、俺の手にしっかりつかまって、足元がおぼつかないひな鳥のように歩く。

「ほら。まお。」
「ん。」

コーヒーカップを置いてやると、短い返事をして両手で包む。
自分だけの愛くるしい小動物を飼っているような気分になる。

「おいし?」
「ん。」

コクコクと喉を鳴らして飲む様は、毎朝見ていても飽きない。

まおも23歳。
変わらない日常と言えど、少しづつ大人になっているはずだ。
俺の前ではいつまでも頼りなく愛らしい表情を見せている。
時折仕事の顔を見かけると、大人っぽさに驚く。

まおが飲み終わるのを見届けて、自分の分をセットする。
今度はちびちびと自分の分を飲みながら、まおが俺を見詰める。



これが、二人の当たり前の日常なのだけれど。

喫茶店に入った時のまおはちょっと違う。

運ばれてきたカップをおそるおそる触り、ふうふうと息を吹きかける。
どんどんと寄り目になっていくのが面白い。
ちょびっと口をつけては、「あちっ」と休憩する。

「熱すぎて、飲めないよー・・・。」

俺のミルクをやると、困り顔のまおが笑顔になる。

「これで、飲めるようになった。」

二人分のミルクを入れたまおの珈琲は、もはやカフェオレ状態だ。
家でも、時間がなくて急ぐときは、冷たい牛乳をたっぷり入れたカフェオレになる。

そして、午後の場合はこれも。


「お前、それだけミルクも砂糖も入れたらコーヒーの味がわかんないだろ。」
「えーっ?ちゃんとするよ。懐かしい味なんだよねえ。」

スプーンにたっぷり3杯の砂糖。
これでも昔に比べたら減ったというのだから驚きだ。


猫舌仕様に最適な温度になるタイミングで湯を沸かす。
毎日の積み重ねが、まおの専任バリスタと呼ぶに相応しい資格になる。


ソムリエのほうはまおに任せっぱなしなんだけどな。


そして、今日も俺は目覚ましの音と共に湯を沸かす。
毎朝繰り返される日常に感謝しながら。



更新日:2017-02-08 21:02:47

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それでも、大まおが一番!その2(2017)