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しょう

「翔ちゃん、おかえり」

「ただいま」

俺に笑いかけてくれるのに、今の俺には辛い。
これから別れ話が待っているんだから。
いや、俺たちは付き合っているわけではないから、別れ話というのはおかしいのかもしれないが。

「ビール飲む?」

「いや」

「コーヒー?」

「……ああ」

話すならシラフの方がいい。
俺はいつものようにソファーに座った。
雅紀の部屋に来るのは、これが最後かもしれないな。
ぐるりと部屋を見回す。

「翔ちゃん、どうしたの?」

コーヒーカップを持った雅紀が、俺のそばに立っている。

「あ、いや、なんでもない」

俺の前にカップが置かれる。
雅紀が俺の向かい、ラグの上に座った。

「翔ちゃん、俺ね」

雅紀の真剣な顔が俺を見つめている。

「ニノに気持ちを伝えようと思うんだ」

わかっていた事だ。
それでも俺の心は傷ついていた。

「そうか、頑張れよ」

棒読みの、台詞。
ドラマで演技してる時よりひどい。

「うん……翔ちゃん、もし、もしニノにフラれたら、俺、翔ちゃんと付き合ってもいい?」

「は?」

今、なんて言った?
俺と付き合う?

「雅紀?」

「翔ちゃん」

突然雅紀が立ち上がり、俺と一緒のソファーに座った。

「翔ちゃん、俺のこと……好きだよね?」

雅紀はチラチラと俺を見て、恥ずかしそうに両手で顔を覆った。
しかし目の部分は開いていて、しっかりと俺を見ている。

「好きじゃなきゃ、出来ないよね?俺を抱くなんて」

俺は雅紀から目をそらす。

「それとも、嫌いなの?」

「そんなことない」

「翔ちゃん!」

「うおっ!」

雅紀に押し倒される。

「好き、って言って。俺のこと、好きって」

その顔は泣きそうだった。

「雅紀?」

更新日:2017-03-01 14:09:09

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