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「ただいま、ダークアイ」
「おかえりなさいませ、スペードさま……キョキョ、それは?」
ダークアイは出迎えた主人の手元に目を留める。そこには小さな花束が握られていた。
「花屋を見かけてね、キレイだったから、お土産」
淡い紫とピンクを中心とした花束を差し出す。
ダークアイは受け取ると、一つ目を細めて香りを嗅いだ。
「ありがとうございます。飾らせていただきますね」
キッチンに向かう背中を見送り、スペードはソファに腰をかける。間もなくして紅茶がテーブルに運ばれた。
礼を言って口をつけると、豊かな香りがスペードを包む。
続いてケーキが目の前に運ばれるのを見て、彼は眉をひそめた。
「……なんだい、コレは」
チョコでコーティングされたのを見ると、おそらくチョコレートケーキだろう。それはいい。
ハートの形をしている。……それもまあ、いいだろう。
問題はその上に書かれている、「Happy Valentine」という文字だ。
「今日はバレンタインですから、チョコレートケーキを焼いてみました」
「バレンタインだから……チョコレートケーキ?」
ダークアイは当然のように答えたが、スペードにとってはその関連性が分からない。
「ああ失礼しました。これって日本だけの習慣でしたね」
あわててダークアイは説明する。
「日本ではバレンタインは女性から男性にチョコレートを贈る日なのです。もちろん愛を伝える日でもありますが、普段お世話になっている男性に渡す義理チョコという習慣もあるんです。それだけではなく、女性同士でチョコを贈りあう友チョコというものもありまして……」
「---それはもう、本来のものからずいぶんと離れていないかい?」
ダークアイは苦笑する。
「でも、それに合わせて新作のチョコが発売されたりするので、わたしは楽しみにしているんですけど」
納得のいかなそうな主人に、ダークアイはケーキを切り分ける。
「まあ、美味しいダークアイのケーキにありつけるなら悪くはないけどね」
チョコレートケーキを口にする主人を見て、ダークアイは微笑む。
スペードの助手として付き従い、忠誠を示してきた。そこに、それ以上の感情が芽生えていることにダークアイは気づき始めていたが、今はまだ彼がチョコレートを食べて喜んでくれる、それだけでよかった。
「キョキョ、忘れるところでした」
ポン、と手を打ってダークアイはキッチンへ下がる。花瓶を抱えて戻ってくると、先程スペードが買ってきた花をテーブルに飾った。
「やっぱりお花があると華やかになりますね。……どうかしましたか、スペードさま?」
視線をそらした主人を、不思議そうに見る。
「いや、このケーキ、とても美味しいよダークアイ」
「そうですか、よかったです」
気づかれないようにしてスペードは小さく息を吐く。
あえてバラは選ばなかった。
なんてことのないように見せたつもりだ。
怪盗と助手という関係を壊したくはなくて、この気持ちを表に出さないようにしてきた。
欧米でバレンタインは男性から女性に愛を伝える日であり、花を贈ることが多い。
いつも世話になっている感謝の気持ちで花束を買っただけ、今日がたまたまバレンタインデーだっただけだ、とスペードは自分に言い訳をした。しかし「happy Valentine」と書かれたケーキの横に置かれていては、まるでピエロじゃないか。
ダークアイが気づいていないのがせめての救いだ。
淡い色でまとめられた花はダークグリーンの服に映えている。嬉しそうにしているダークアイの姿が見られたなら、今はそれで充分だった。
そうしているとダークアイと目が合い、あわててカップを引き寄せて視線をそらした。
スペードは紅茶を流し込みながら、熱くなる顔を冷ますのに精一杯だった。
「おかえりなさいませ、スペードさま……キョキョ、それは?」
ダークアイは出迎えた主人の手元に目を留める。そこには小さな花束が握られていた。
「花屋を見かけてね、キレイだったから、お土産」
淡い紫とピンクを中心とした花束を差し出す。
ダークアイは受け取ると、一つ目を細めて香りを嗅いだ。
「ありがとうございます。飾らせていただきますね」
キッチンに向かう背中を見送り、スペードはソファに腰をかける。間もなくして紅茶がテーブルに運ばれた。
礼を言って口をつけると、豊かな香りがスペードを包む。
続いてケーキが目の前に運ばれるのを見て、彼は眉をひそめた。
「……なんだい、コレは」
チョコでコーティングされたのを見ると、おそらくチョコレートケーキだろう。それはいい。
ハートの形をしている。……それもまあ、いいだろう。
問題はその上に書かれている、「Happy Valentine」という文字だ。
「今日はバレンタインですから、チョコレートケーキを焼いてみました」
「バレンタインだから……チョコレートケーキ?」
ダークアイは当然のように答えたが、スペードにとってはその関連性が分からない。
「ああ失礼しました。これって日本だけの習慣でしたね」
あわててダークアイは説明する。
「日本ではバレンタインは女性から男性にチョコレートを贈る日なのです。もちろん愛を伝える日でもありますが、普段お世話になっている男性に渡す義理チョコという習慣もあるんです。それだけではなく、女性同士でチョコを贈りあう友チョコというものもありまして……」
「---それはもう、本来のものからずいぶんと離れていないかい?」
ダークアイは苦笑する。
「でも、それに合わせて新作のチョコが発売されたりするので、わたしは楽しみにしているんですけど」
納得のいかなそうな主人に、ダークアイはケーキを切り分ける。
「まあ、美味しいダークアイのケーキにありつけるなら悪くはないけどね」
チョコレートケーキを口にする主人を見て、ダークアイは微笑む。
スペードの助手として付き従い、忠誠を示してきた。そこに、それ以上の感情が芽生えていることにダークアイは気づき始めていたが、今はまだ彼がチョコレートを食べて喜んでくれる、それだけでよかった。
「キョキョ、忘れるところでした」
ポン、と手を打ってダークアイはキッチンへ下がる。花瓶を抱えて戻ってくると、先程スペードが買ってきた花をテーブルに飾った。
「やっぱりお花があると華やかになりますね。……どうかしましたか、スペードさま?」
視線をそらした主人を、不思議そうに見る。
「いや、このケーキ、とても美味しいよダークアイ」
「そうですか、よかったです」
気づかれないようにしてスペードは小さく息を吐く。
あえてバラは選ばなかった。
なんてことのないように見せたつもりだ。
怪盗と助手という関係を壊したくはなくて、この気持ちを表に出さないようにしてきた。
欧米でバレンタインは男性から女性に愛を伝える日であり、花を贈ることが多い。
いつも世話になっている感謝の気持ちで花束を買っただけ、今日がたまたまバレンタインデーだっただけだ、とスペードは自分に言い訳をした。しかし「happy Valentine」と書かれたケーキの横に置かれていては、まるでピエロじゃないか。
ダークアイが気づいていないのがせめての救いだ。
淡い色でまとめられた花はダークグリーンの服に映えている。嬉しそうにしているダークアイの姿が見られたなら、今はそれで充分だった。
そうしているとダークアイと目が合い、あわててカップを引き寄せて視線をそらした。
スペードは紅茶を流し込みながら、熱くなる顔を冷ますのに精一杯だった。
更新日:2017-02-10 16:50:32