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第6話 ハイドミューンの暗躍


 …日中とはうって変わって夜風が冷たい。
 既に施錠された宇和島市役所の表の玄関前に、一人の男が
 自転車にまたがり、庁舎を見上げていた。
 その年齢は40代半ばから後半くらいであろうか、短髪の頭髪は
 すっかり白髪に染まっている。

  (…あのとき確かに大きな気配を感じたが…)

 彼はいぶかしげに、ゆっくりとあたりを見渡した。
 だが、そこに何かの気配は感じられなかった…。


 …その男はJR宇和島駅へと足を向けた。
 すっかりと日が暮れた夜の街を、着ている紺色のジャンパーを
 なびかせながら自転車が疾走する。
 彼は駅の裏手にある駐車場の喫煙場の前にそれを停め、
 ホームをみやった。
 …そこにほどなく、下りの特急が到着する。

  「さてと…」

 その男…三紋寺和弥(※「さんもんじ かずや」と読む)は、
 リュックの中から菓子パンを取り出し、包みを破って
 頬ばった。
 …たっぷりと塗りこまれたマーガリンと、つぶあんの甘みが
 口の中に広がる。
 彼にとっては、「定番」のコッペパンである。

  「ここでしたか…」

 そこに一人の老齢の男が現れた。
 和弥にある意味の忠誠を誓う男…
 柏紫朗(「かしわ しろう」と読む)「」であった。

  「先日、市役所の方で何やら怪しげな気配を感じた。
  あいつ…久々に姿を現しやがったか…」
  「…っ!?『彼』が…ですか?」

 それは紫朗にも記憶にある…いや、忘れることのできない
 人物であった。
 和弥は頷き、またコッペパンを頬ばった。

  「いよいよだな…」

 何かを決意したような和弥をみて、紫朗はしばし口を
 閉ざした。

  「あの、それで…須賀様の方は…?」
  「ン?ああ、そうだったな…まぁしばらくは、ほっといても
  いいだろう…」

 …と、そのときであった。
 なんともいいようのない、嫌なものが和弥の背筋を走った。
 彼は何かの気配を感じたのだ…!

  「…市立病院の方だな」

 重い腰を上げるように和弥が立ち上がった。

  「ここを離れる前に…ひと暴れしてやるか!」

 二人はその場を後にした。

更新日:2017-06-28 10:31:01

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