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(三)

わたしがあの時、読んだのはこれが全てである。この便箋を受け取った翌日の朝。部屋にけたたましく鳴り響いた電話に私は起こされた。それは兄弟夫婦からであった。それからはほぼ無意識に、まるで閃光照明をいっぱいにとりつけた太陽が、さんさんと光注ぐビーチで遊泳しているかのような感覚でいた。闇の中で廊下を通ったとき、私は脱衣所に放り投げてあった彼の長手紙を見つけた。私はそれをしばらく見つめたあと、会社に連絡し、身支度をし、外に出た。
 東京駅につくと、私は人混みを見た。いつも見慣れている風景がどこかまばゆいものを感じた。地元行きの新幹線に乗るために、新幹線切符売り場へと向かっていた。兄弟夫婦は地元で生活をしていたのだ。着くと、初老らしいが、とても整った身なりの感じのいい男性が対応してくれた。私が口を開こうとすると、ふいに彼がこう言った。
 「お客さん、どうかされました...?」
私には、彼がなにを言っているのかさっぱりわからなかった。
 「なにか?」
ふと私は視界に鏡に映る自分の顔を見た。そのとき、私は初めて自分が泣いていたのを知った。

更新日:2016-12-30 19:44:41

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