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Happy Holiday -2016-
Vesperの森の木立もすっかり葉を落とし、野原は雪に白く覆われていた。
にぎやかだったHolidayの祝いも終わり、港には飾り付けられたツリーが残されている。
てっぺんに飾られた星だけが魔法できらきらと輝いている以外、とても静かな情景だった。
「おい、今年の陛下への祝いはどうしたんだ?」
くたびれた白衣の下に温かいセーターを着こんだ男が、窓辺に登りガラスに小さな手を置いて雪が降る様子を見ているフェレットに声をかけた。
小さなベスパー首長は「もきゅ?」と小さくつぶやいて、首長補佐のアッカーマンのほうへ振り向く。
「ちゃんとおくたですよー?
今年はラマの産毛100%のあったか毛布もきゅ。」
「へえ、まあ贈ったならいい。
毎年大騒ぎしてるから、今年の静かさにちょっと不安になったところだ。」
「ぬかりないもきゅー!」
ケリーは首長席のクッションの上に戻ると、おっちゃんがそろえた書類に目を通し始める。
アッカーマンは冷めかけた珈琲のカップをすする。
そして、ふと思いついたように首を傾げた。
「いや・・・まてよ?
そういや、ひと月ほど前に東の野原が騒がしかったな。
ラマが大量に集まってたと衛兵に聞いたが、あれが材料集めだったか。」
「はいもきゅー。陛下のために100頭のラマが脱いだもきゅ!」
「脱ぐって言うな。つか、この時期に毛刈りか?」
「違うもきゅ!アクアちゃんとスピニングホイールのみんなで、ブラッシングしまくったもきゅ!」
「それならいい。陛下のためにブリタニア中のラマが風邪を引いたって騒ぎになったらたまらん。」
安心したように小さく溜息をついた男は、再び珈琲をすすった。
ふと一つの風のうわさを思い出し、そのままの姿勢で動きを止める。
(その前にも大量のラマが、ブリテインの西の畑に集まったと聞いたな。たしか―――)
アッカーマンはフェレットの対面に座り、首長机に肘をついて小動物の顔を覗き込んだ。
「なあ、ハロウィンの終わったころ、ブリ西の温泉に大量のラマが押し寄せたのって、お前のせい?」
フェレットはきょとんとおっちゃんの顔を見返す。
そのままじっと見つめ返して目をパチパチさせていたが、しばらくして視線がうろうろと泳ぎ始めた。
やっぱりか、と首長補佐は顔をしかめた。
ケリーはひきつったような愛想笑いの顔をする。
「えーと・・・。きれいな産毛を梳(す)くためにー、温泉でらまま達洗ったもきゅ。
おっちゃんに前に言われたとおり、温泉につかる前にきれいきれいに石鹼で洗ったもきゅよ!
そのあとはちゃんと露天風呂は掃除して、修理もしといたもきゅ!」
「ぁー・・・。まあ、うん、ブリテイン首長からは苦情は来てないから別にいいんだ。
いいんだが、俺にもひとこと前もって言ってくれよな?
いきなり騒動が持ち込まれたら、心臓に悪い。」
「おっちゃんがハゲちゃう!」
「ハゲねぇよ!」
とはいえ、動物相手で苦労が多い首長補佐の髪に、白髪が出始めたのは確かなことだった。
灰色に近い髪色なので、今のところ目立ってないのが幸いだった。
ともあれ、獣と人間との考えの差は、相変わらずなかなか埋めにくいものだった。
おっちゃんに叱られると思っていたフェレットは、ほっとしたような笑顔になってまた書類を読み始めた。
それが終わるといつものように右前脚をインク壺に前足をひたして、書類にペタペタとサイン代わりに押していく。
首長補佐にインクに濡れた右前脚を、温かい濡れ雑巾で拭いてもらって首長の仕事は終わりだ。
フェレットは錬金用の加熱台で温めたミルクを作ってもらい、コップを器用に両手で抱えて、鼻先を突っ込んで舐めはじめる。
二杯目のコーヒーを飲み始めたアッカーマンは、うっかり胸元にこぼして濡れ雑巾を手に取った。
男の濃茶色のセーターに目を止め、ケリーはコップに鼻先を突っ込んだまま上目づかいにじーっとみつめる。
「ねね、そのセーターどうしたですか?去年は着てなかた気がしもきゅが。」
おっちゃんはコーヒーをふき取りながら、ふふんと笑ってにやりとした。
「いいだろ。アクアちゃんお手製のブリタニアンウールのセーターだぜ?
あ、やらねーからな?爪ひっかけんじゃねぇぞ。」
「そんな粗相はいたしませんもきゅ!
あと、アクアちゃんに手を出したらダメもきゅ!
ベスパーの青少年保護育成条例に反するもきゅ!」
「いつの間にそんな条例出来たんだよ!つーか、心配いらんわ!
スピニングホイールのお姉さまにこっそり聞いたら、『アッカーマンさんはおとうさんみたい』だとさ。
この歳ででかい子供がいきなりできた感じなんだぜ!」
「いいこともきゅ!おっちゃんの歳なら、そゆ大きい子供がいても不思議じゃないもきゅ―――ぎゃっ!」
コーヒーとインク臭い雑巾がべちゃっとフェレットの頭に命中した。
にぎやかだったHolidayの祝いも終わり、港には飾り付けられたツリーが残されている。
てっぺんに飾られた星だけが魔法できらきらと輝いている以外、とても静かな情景だった。
「おい、今年の陛下への祝いはどうしたんだ?」
くたびれた白衣の下に温かいセーターを着こんだ男が、窓辺に登りガラスに小さな手を置いて雪が降る様子を見ているフェレットに声をかけた。
小さなベスパー首長は「もきゅ?」と小さくつぶやいて、首長補佐のアッカーマンのほうへ振り向く。
「ちゃんとおくたですよー?
今年はラマの産毛100%のあったか毛布もきゅ。」
「へえ、まあ贈ったならいい。
毎年大騒ぎしてるから、今年の静かさにちょっと不安になったところだ。」
「ぬかりないもきゅー!」
ケリーは首長席のクッションの上に戻ると、おっちゃんがそろえた書類に目を通し始める。
アッカーマンは冷めかけた珈琲のカップをすする。
そして、ふと思いついたように首を傾げた。
「いや・・・まてよ?
そういや、ひと月ほど前に東の野原が騒がしかったな。
ラマが大量に集まってたと衛兵に聞いたが、あれが材料集めだったか。」
「はいもきゅー。陛下のために100頭のラマが脱いだもきゅ!」
「脱ぐって言うな。つか、この時期に毛刈りか?」
「違うもきゅ!アクアちゃんとスピニングホイールのみんなで、ブラッシングしまくったもきゅ!」
「それならいい。陛下のためにブリタニア中のラマが風邪を引いたって騒ぎになったらたまらん。」
安心したように小さく溜息をついた男は、再び珈琲をすすった。
ふと一つの風のうわさを思い出し、そのままの姿勢で動きを止める。
(その前にも大量のラマが、ブリテインの西の畑に集まったと聞いたな。たしか―――)
アッカーマンはフェレットの対面に座り、首長机に肘をついて小動物の顔を覗き込んだ。
「なあ、ハロウィンの終わったころ、ブリ西の温泉に大量のラマが押し寄せたのって、お前のせい?」
フェレットはきょとんとおっちゃんの顔を見返す。
そのままじっと見つめ返して目をパチパチさせていたが、しばらくして視線がうろうろと泳ぎ始めた。
やっぱりか、と首長補佐は顔をしかめた。
ケリーはひきつったような愛想笑いの顔をする。
「えーと・・・。きれいな産毛を梳(す)くためにー、温泉でらまま達洗ったもきゅ。
おっちゃんに前に言われたとおり、温泉につかる前にきれいきれいに石鹼で洗ったもきゅよ!
そのあとはちゃんと露天風呂は掃除して、修理もしといたもきゅ!」
「ぁー・・・。まあ、うん、ブリテイン首長からは苦情は来てないから別にいいんだ。
いいんだが、俺にもひとこと前もって言ってくれよな?
いきなり騒動が持ち込まれたら、心臓に悪い。」
「おっちゃんがハゲちゃう!」
「ハゲねぇよ!」
とはいえ、動物相手で苦労が多い首長補佐の髪に、白髪が出始めたのは確かなことだった。
灰色に近い髪色なので、今のところ目立ってないのが幸いだった。
ともあれ、獣と人間との考えの差は、相変わらずなかなか埋めにくいものだった。
おっちゃんに叱られると思っていたフェレットは、ほっとしたような笑顔になってまた書類を読み始めた。
それが終わるといつものように右前脚をインク壺に前足をひたして、書類にペタペタとサイン代わりに押していく。
首長補佐にインクに濡れた右前脚を、温かい濡れ雑巾で拭いてもらって首長の仕事は終わりだ。
フェレットは錬金用の加熱台で温めたミルクを作ってもらい、コップを器用に両手で抱えて、鼻先を突っ込んで舐めはじめる。
二杯目のコーヒーを飲み始めたアッカーマンは、うっかり胸元にこぼして濡れ雑巾を手に取った。
男の濃茶色のセーターに目を止め、ケリーはコップに鼻先を突っ込んだまま上目づかいにじーっとみつめる。
「ねね、そのセーターどうしたですか?去年は着てなかた気がしもきゅが。」
おっちゃんはコーヒーをふき取りながら、ふふんと笑ってにやりとした。
「いいだろ。アクアちゃんお手製のブリタニアンウールのセーターだぜ?
あ、やらねーからな?爪ひっかけんじゃねぇぞ。」
「そんな粗相はいたしませんもきゅ!
あと、アクアちゃんに手を出したらダメもきゅ!
ベスパーの青少年保護育成条例に反するもきゅ!」
「いつの間にそんな条例出来たんだよ!つーか、心配いらんわ!
スピニングホイールのお姉さまにこっそり聞いたら、『アッカーマンさんはおとうさんみたい』だとさ。
この歳ででかい子供がいきなりできた感じなんだぜ!」
「いいこともきゅ!おっちゃんの歳なら、そゆ大きい子供がいても不思議じゃないもきゅ―――ぎゃっ!」
コーヒーとインク臭い雑巾がべちゃっとフェレットの頭に命中した。
更新日:2017-01-06 20:39:28