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第1章 「出会い」

ユリウスとの初対面、今でも鮮明に思い出せるほど、私にとってそれは印象深い。けれどもユリウス自身は、そのことをほとんど憶えてはいないだろう。銃弾を受けた時の発熱で朦朧としており、私の前に現れたかと思うと、すぐに気を失ってしまった。

日露戦争の最中、大本営での会議が連日続いて一時帰宅した所、騒がしかったリュドミールに呼び止められ、階段を見上げるとユリウスが佇んでいた。白いガウンをまとい、熱のためか力無く儚げな姿で。金色の髪に白い肌、華奢な容姿が、どこか化身の様な美しさで、不思議だった。何となく人間の女という気がせず、これは幻だろうかと思っているうちに、熱が下がらないまま無理をして動いた彼女は、階段で倒れ込み上から落ちてくる。その時私はすぐに駆け上って、ユリウスを抱きとめた。彼女は驚くほど軽かった。まるで妖精でも捕えたような気持ちになりながら、ゲストルームの寝台まで運び、それから軍医を呼んだ。


ペテルブルク市内のデモが発端で、警備隊の兵士と市民との間で銃撃戦になる事件があった。騒乱に巻き込まれ、肩に流れ弾を受けたユリウスを、私の部下が偶然保護をした。気を失って倒れていたが、身なりがよくパスポートを所持している外国人だと分かり、私の所に報告が来る。然るべき身分の外国人がロシアで危険に晒されたとあっては、外交問題になりかねない。負傷しているということなので、とりあえず当人を預かり、手当することにした。銃弾を受けたならやはり軍医が適当だと判断し診せると、信じられないことに負傷者は「女」だった。

そんなことがあるのか?! 私は驚きを隠せなかった。ベッドに横たわる少女は年若く、パスポート通り少年のように見えなくもない。しかし、女だったとは。しかも軍医の診立てでは、銃弾の古い傷跡が他にもあると。この少女は一体何者で、どういう理由で性を偽っているのだろう…。外国人らしいが、スパイなのか。調べる必要がある。ともかく、彼女の回復を待とう。調べるのは、それからでも遅くない。その後熱が下がったユリウスが目を覚ますまで、二日ほど要した。

更新日:2017-07-02 10:39:58

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我、汝を愛す【オルフェウスの窓ss Ⅵ 】