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プロローグー「別れ」
冬を迎える前に、ユリウスはロシアを去った。私が愛した、異国の少女。7年間同じ屋敷で暮らした彼女を、雪が訪れる前に、私は故郷に帰さなければならなかった。
「家族同然に暮らしていた、ユスーポフの家を出ていきたくない。」ユリウスは訴えた。それどころか、私の傍にいたいと。そんなふうに私を慕った彼女を、突き放さなければならなかった。
まもなくロシアは、彼女の故国ドイツと戦争になるだろう。今の所表立ってはいないが、着々と歴史の歯車は戦争へと動き始めている。イギリスとドイツはすでに軍備増強を重ね、戦争への準備に入ってきた。開戦してしまったら、いつ戦争が終わるのか誰にも分からない。もしドイツに帰る機会を逸してしまったら、私は危ぶんだ。
ユリウスがペテルブルクにやって来た時から、私は彼女を自分の家に住まわせ外界から守ってきた。ロシア皇室の隠し財産を預かる、バイエルンのアーレンスマイヤー家。奇しくも彼女はその家の出身だった。それゆえ皇帝陛下から、直接彼女の保護を仰せ使わる。
万が一革命が起こった時に備えての隠し財産、そんなものが世間に知れてしまったら大変な状況を招く。加えてラスプーチン以下宮廷や軍部でも、私のことを快く思わない者たちはおり、私の身近にいる以上常に身辺の用心をしないわけにはいかなかった。
皇帝陛下の諮問を受けて屋敷に戻る途中ユリウスが記憶を失うと、それが思いがけない幸運と、私は天に感謝さえした。彼女は反政府活動をしている反逆者、アレクセイ・ミハイロフに近しい者だった。ただ一人ドイツからその男を追って、ロシアにやって来た。そのことは、事態を更に複雑にする。私自身のユリウスに対する感情も含めて。
「家族同然に暮らしていた、ユスーポフの家を出ていきたくない。」ユリウスは訴えた。それどころか、私の傍にいたいと。そんなふうに私を慕った彼女を、突き放さなければならなかった。
まもなくロシアは、彼女の故国ドイツと戦争になるだろう。今の所表立ってはいないが、着々と歴史の歯車は戦争へと動き始めている。イギリスとドイツはすでに軍備増強を重ね、戦争への準備に入ってきた。開戦してしまったら、いつ戦争が終わるのか誰にも分からない。もしドイツに帰る機会を逸してしまったら、私は危ぶんだ。
ユリウスがペテルブルクにやって来た時から、私は彼女を自分の家に住まわせ外界から守ってきた。ロシア皇室の隠し財産を預かる、バイエルンのアーレンスマイヤー家。奇しくも彼女はその家の出身だった。それゆえ皇帝陛下から、直接彼女の保護を仰せ使わる。
万が一革命が起こった時に備えての隠し財産、そんなものが世間に知れてしまったら大変な状況を招く。加えてラスプーチン以下宮廷や軍部でも、私のことを快く思わない者たちはおり、私の身近にいる以上常に身辺の用心をしないわけにはいかなかった。
皇帝陛下の諮問を受けて屋敷に戻る途中ユリウスが記憶を失うと、それが思いがけない幸運と、私は天に感謝さえした。彼女は反政府活動をしている反逆者、アレクセイ・ミハイロフに近しい者だった。ただ一人ドイツからその男を追って、ロシアにやって来た。そのことは、事態を更に複雑にする。私自身のユリウスに対する感情も含めて。
更新日:2017-07-03 07:19:25