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小説

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白夜

挿絵 640*427

玄関のドアをそっと開けた。
まだ彼が眠っているだろうと、滑り込むように部屋の中に入った。

「ただいま~~」

部屋の中はしんと静まり返っている。まだ早い時間だ。
抱えたミルクを台所に運び、上着を脱いだ。

「さて・・・」

ブラウスの袖をまくり、朝食の準備を始める。サモワールに火を入れてお茶の用意をする。毎朝の風景だ。
アレクセイと暮らし始めて3か月。季節は白夜の時期に入ってきていた。
毎日の家事にもずいぶん慣れたと思う。
料理を作り、掃除、洗濯、買い物。水仕事が多くなるから少し手が荒れてきた。
それでも生きている実感がわいてくる。
アレクセイは毎日帰ってくるわけではないが、彼を待つ時間ですら自分が生きていることを感じられていた。
ただ何となく日々を過ごし、時間を過ぎるのを待っていた時と、なんと違うことだろう。

当たり前のことだが、人と接することも多くなってくる。
同じアパートの住人、近所の子どもたち、早朝に訪れるミルク売りのおばさん、市場でも顔見知りができた。
初めは男のなりをしているユリウスを警戒する人たちも多かったが、彼女自身を知ると、それもありかと不思議な理解を示してくるようになってきた。

手早く朝食を整えると寝室に入った。

「アレクセイ、起きて」

ベッドに腰を掛けて、布団を頭からかぶっているアレクセイをそっとゆすった。
昨夜は1週間ぶりの帰宅だった。

更新日:2016-10-20 18:43:42