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彷徨

挿絵 217*193

暖炉の火が赤々と燃えている。ふんだんに薪がくべられ、部屋はほんのりと暖かい。

レオニード・ユスーポフは窓辺に立ち、先ほどの報告を頭の中で反芻していた。
ボリシェビキに潜入させたロフトフスキーからの報告は少なからず彼の心を乱す。だが、聞きたくてたまらなかった。あの日、心がちぎれそうな思いを押し殺して手放した金髪の乙女のことを。

敵方であるはずの彼女のことが最優先となっていた。もちろん、そんなことはおくびにも出さないが、ユリウスがどのように暮らしているかを知ることが彼の喜びでもあった。

「それで、あれはどうしている」

忠実な部下に背を向けたまま、問いかける。ユリウスのことを聴くときはいつもそうだった。極力顔に感情を出さないように努めていることは、そば近くに長く仕えたロフトフスキーには容易に察することができた。

「・・・」

沈黙を破ったのは主のほうだった。

「どうした?」

言葉の端に険を帯びる。

「いつもと変わらずお過ごしでございます。冬になると、彼らの活動が活発になりますゆえ、アレクセイ・ミハイロフの帰宅も少なくなってまいります。最近は、教会で子どもたちに歌や読み書きを教えられています」

「あれが?」

主の肩がかすかに揺れた。

「はい、詳しくは把握できておりませんが、ピアノを弾き、歌を歌って・・・」
「もう、よい!」

ロフトフスキーの次の言葉を遮るように制した。

「ご苦労だった。いつもすまぬな」

自分の言葉を遮ったことを詫びるかのような優しい声音だった。

更新日:2018-06-20 15:05:58

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